実態を解明し、被害者を一刻も早く救う必要がある。そのためには、根拠となる法律の整備などを急がねばならない。

 だが低迷する支持率を横目に、唐突に方針を打ち出すような対応が続いては、行き当たりばったりな印象が強く、実効性のある対策となるか不安だ。政府と与野党の丁寧な議論が不可欠だ。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題で、岸田文雄首相は被害者救済に向けた新法を今国会に提出する方針を表明した。

 被害者と面会していた事実も明かし、「被害者救済と再発防止のため、ペースを速めて新たな法制度実現に取り組む」と強調した。

 悪質な寄付勧誘の禁止や、損害賠償請求、子や配偶者の被害救済などを可能にすることを中心に、新規立法を検討する考えだ。

 法整備に向けては自民、公明、立憲民主、日本維新の会の与野党4党が、10月から協議を重ねていたが、献金要求に悪用されるマインドコントロール(洗脳)の定義などで見解が異なり、議論が進んでいなかった。

 与党内でも、政府提出法案か議員立法かといった方向性が定まっていなかった。

 そうした中で首相が急にかじを切った。意思を明確にしたと言えるが、背景に支持率低迷を打開する狙いがあるのは間違いない。

 立民と維新は自公との協議で、家族が本人に代わり献金を取り戻せる手続きなどを要求している。

 政府、自民党は悪質な寄付勧誘に違反した場合に刑事罰を科す規定の導入について検討を始めた。

 膠着(こうちゃく)している与野党の議論を、12月10日までの国会会期中にどうまとめるか。

 法案の提出、成立を遅らせることなく、被害者に寄り添った法律にしてもらいたい。

 旧統一教会に対する調査では、宗教法人法に基づく「質問権」行使の基準を検討する文化庁の専門家会議が、初の基準をまとめた。

 相当数の法令違反が繰り返されるなど、広範で重大な被害が生じていることが柱だ。永岡桂子文部科学相が近く、旧統一教会が該当すると表明する。

 基準は、権力の恣意(しい)的な運用に歯止めをかけるものだ。憲法は国家による宗教への介入を禁じており、慎重な審議が欠かせない。

 しかし検討は、岸田首相が質問権行使を表明してから3週間、専門家会議の初会合からわずか2週間で決着した。

 文化庁は委員から反対の声はなかったとしたが、会議は非公開で行われ、十分な議論が尽くされたかなど詳細は確認できない。

 前例のない質問権を行使するには、決定過程の透明性を確保することが必要だ。他の宗教団体の懸念を払拭するためにも、政府は情報を積極的に開示し、検証できるようにしてもらいたい。