新潟市で下校中だった13歳の中学1年生、横田めぐみさんが北朝鮮の工作員に拉致されたのは1977年11月15日のことだ。間もなく45年がたつ。
20年前、北朝鮮の金(キム)正日(ジョンイル)総書記は日本人拉致を認め、謝罪した。その1カ月後に5人が帰国してからは、めぐみさんを含め誰一人として帰国が実現していない。
一昨年、父滋さんが87歳で亡くなった。母早紀江さんは86歳になった。未帰国の政府認定被害者12人のうち「親世代」で存命なのは早紀江さんら2人だけだ。
一刻の猶予もない。政府は親たちが元気なうちに救出するという責任を果たしてもらいたい。
12日には新潟市で「忘れるな拉致 県民集会」が開かれた。拉致被害者や特定失踪者の家族が速やかな帰国実現を訴えた。
家族会代表の弟拓也さん(54)は「父はどれだけ会いたく、苦しんだか。帰国を果たし、残る親世代と抱き合うまで諦めることはできない」と力を込めた。
ビデオメッセージで、早紀江さんは「いつまで待っても何も見えてこない。拉致被害者を助けてほしいと何十年も訴え続け、むなしさが広がっている」と語った。
切実な声を胸に刻みたい。拉致をわが事として受け止め、一人一人ができることを考えたい。
気になるのは、岸田文雄首相はじめ歴代首相が拉致問題を「最重要課題」に掲げているのに、近年、目立った動きがないことだ。
「条件を付けずに金(キム)正恩(ジョンウン)総書記と直接向き合う」との決意も語るが、そのための事前交渉の気配や熱意が感じられない。
早紀江さんらは「一刻も早く首脳会談を開いて」「熱い言葉をぶつけてほしい」と要望した。政府は重く受け止めるべきだ。
花角英世知事は拉致交渉について「信じてくれと政府は言うが、今どういう取り組みをしているのか。世論を喚起するために情報を教えてもらいたい」と指摘する。
交渉内容の全てをつまびらかにできないことは分かるが、状況をある程度開示することが必要なのではないか。
首相には早期救出に向けて主体的に動いていく覚悟と、有言実行を強く求める。
2002年に帰国した拉致被害者の蓮池薫さんは、めぐみさんらの帰国の見返りを提示するなど、北朝鮮に強いメッセージを送るべきだと提起している。
政府は、02年の日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルの諸懸案を包括的に解決し、国交正常化を目指す方針は変えていない。
だが北朝鮮は今年に入ってからも弾道ミサイル発射を繰り返す。政府はその都度「厳重抗議」を発表するが、無視されている。
核、ミサイル問題の打開は米国の強い圧力政策が鍵となる。13日に首脳会談を開く日米韓の連携が重要だ。会談でも拉致問題をしっかり話し合ってもらいたい。
救出活動の中心は、きょうだいや子の世代へと移った。拉致を知らない人も増える。特定失踪者を含めた被害者全員を救うため、拉致とは何かを伝えねばならない。
