なぜスポーツの祭典が巨額不正の温床になったのか。司法の場で真相を解明するのは当然だが、主催者側にも癒着の徹底検証が求められる。それを欠いては国民の不信は払拭できない。
東京五輪・オリンピックを巡る汚職事件で東京地検特捜部は、受託収賄罪で大会組織委員会の元理事高橋治之被告を追起訴した。高橋被告の起訴はこれで4回目だ。
特捜部は、8月の紳士服大手AOKIホールディングスのルートを皮切りに、5ルートで高橋被告や贈賄側企業トップらの逮捕、起訴を重ねた。一連の捜査はこれで区切りを迎えたとみられる。
起訴されたのは15人となり、高橋被告は総額約1億9800万円の賄賂を受領したとされる。異例の規模の汚職事件に発展したことに改めて強い憤りを覚える。
捜査で浮き彫りになったのは、組織委に影響力を持つ高橋被告に、五輪事業のスポンサー参入などを求めて企業が群がる構図だ。
電通元専務の高橋被告は贈賄側の要望を通すため、スポンサー募集を担う専任代理店の電通と、電通からの出向者が多い組織委に対し強く働きかけた疑いがある。
高橋被告は起訴内容を否認している。裁判は、高橋被告が理事の職務権限に基づき便宜を図ったかどうかが焦点となる。
一連の事件では高橋被告や贈賄側企業の幹部が、組織委元会長の森喜朗元首相や日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長と何度か会食したとされる。
特捜部は2人に任意で事情を聞いたが、事件への関与を裏付ける証拠は得られなかったという。
竹田氏は、東京大会招致を巡る不正疑惑でフランス司法当局の捜査対象になっている。
他にも企業や関係者による不正はなかったかなど、特捜部は全容解明へ捜査を続けてほしい。
汚職を防ぐことができなかった組織委の責任は極めて重い。
組織委のスポンサーの選定過程などは「ブラックボックス」と指摘され、不透明さが事件の温床になった可能性がある。組織委が幅広い人脈を持つ高橋被告に安易に頼った側面もあるとみられる。
組織委は既に解散したが、幕引きは許されない。
JOCは、札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪を含めた今後の大会運営を念頭に、組織委のガバナンス(統治)や情報開示の在り方などを協議する検討委員会を近く立ち上げるとしている。
東京都なども再発防止に向けた有識者会議を設置する。
事件発覚から3カ月が過ぎ、対応が遅い。事件を徹底検証するのかもきちんと伝わってこない。
検証を欠いたままでは、教訓をしっかりくみ取り、改善につなげることはできない。こうした状況では札幌開催への国民の理解は広がらないだろう。
