日中間で高まる緊張を緩和するためには、トップ同士が直接会って、信頼関係を築いていくことが欠かせない。対話を継続して懸案を解き、友好関係の再構築を着実に進めるべきだ。
岸田文雄首相は、中国の習近平国家主席とタイ・バンコクで会談した。建設的で安定的な関係構築に向け協力し、首脳を含むあらゆるレベルで緊密に意思の疎通を図っていくことで合意した。
日中首脳の対面会談は約3年ぶりで、岸田氏にとっては初めてだ。今年は日中国交正常化50年の節目でもあり、両国は首脳会談の実現に向けて調整してきた。
会談の焦点は、国内の権力基盤を固めた習氏との間で、滞った日中関係を発展させ、緊張緩和につなげられるかどうかだった。
岸田氏は、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海情勢や中国による弾道ミサイル発射など軍事活動について「深刻な懸念」を伝えた。
一方、習氏は台湾統一や人権問題を念頭に「中国内政への干渉は受け入れない」と述べ、日本をけん制した。
両氏は、林芳正外相の訪中を調整することや、閣僚級の経済対話の早期再開などで合意した。防衛当局間の相互通報体制の柱となるホットラインの運用を早期に始め、意思疎通も図るとした。
尖閣諸島では中国船の領海侵入が急増している。台湾海峡でも中国の脅威が高まり、台湾を支える米国との対立が深まっている。
偶発的な軍事衝突の懸念が増す中、日中のトップが意見を交わして対策を講じ、関係改善を図るのは大事なことだ。今回ようやくその一歩を踏み出せたといえる。
ただ、安全保障などを巡る隔たりは依然として大きい。
習氏は尖閣諸島の「領有権」を主張し、強硬姿勢を崩さない。軍事面では「世界一流の軍隊建設を加速させる」と宣言しており、対米を念頭に軍拡に突き進む。
これに対し岸田氏は、米国を後ろ盾に防衛力の抜本強化を掲げる。戦力不保持を定めた憲法9条から逸脱しかねない敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を検討するなど、前のめり感は否めない。
だが、隣国同士が抑止力の名の下に軍拡を続ければ、かえって衝突の可能性を高める「安全保障のジレンマ」に陥る恐れが増す。
こうした危機を抜本的に取り除くためには、粘り強く中国に自制を促す外交戦略にこそ力を注ぐ必要があるはずだ。
中国と友好関係にある北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、地域の安全を脅かしている。日本人拉致問題の解決にも応じない。
理不尽な振る舞いを改めさせるには中国の働きかけが必要だ。
さまざまな課題の解決に向け、日本と中国はトップ会談を重ね、アジアの平和と友好の道をリードしてほしい。
