岸田文雄首相の判断はまたしても遅く、リーダーとしての資質に疑問符が付く。1カ月足らずで閣僚3人が辞任する異常事態を重く受け止めなくてはならない。

 自ら「正念場を迎えている」と述べた首相は、信頼を取り戻せるかどうかの瀬戸際にいることも強く認識するべきだ。

 首相は政治資金問題が相次ぎ発覚した寺田稔総務相を更迭した。

 「政治とカネ」の所管省庁トップとしてあまりにも無責任で、不適切な言動を繰り返した。法令違反の疑いもあり、更迭は当然だ。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で山際大志郎前経済再生担当相、死刑執行を巡る失言で葉梨康弘前法相がそれぞれ更迭されたのに続く3人目で、「閣僚辞任ドミノ」となった。

 政権への打撃は大きく、首相の求心力低下は必至だ。

 寺田氏を巡っては、10月初めに自身の政治団体が事務所賃料を妻に支払っていたことが判明した。

 下旬には、後援会が提出した政治資金収支報告書の会計責任者が故人だったと指摘された。

 今月に入ってからは、選挙運動員買収の疑いも報道された。

 寺田氏は「何ら問題はない」「チェックする立場にない」などと強弁し、責任を認めなかった。

 政治資金と選挙の担当閣僚としてふさわしくないのは明白だ。「事務的ミス」では済まされない。

 それどころか「地元の方々からは『説明に感心した』という声しか聞いていない」と悪びれず、反省の色は見えなかった。

 理解し難いのは、次々に疑惑が浮上し、野党が早期辞任を迫る中、首相は説明責任を果たすよう求めるだけだったことだ。自民党内から寺田氏の辞任論が噴出してようやく事態収拾に動いた。

 閣僚更迭のたび、首相は「任命責任を重く受け止める」と述べてきたが、指導力がうかがえない。口先で繰り返すだけでは困る。

 国会日程は、第2次補正予算案をはじめ、旧統一教会問題を巡る被害者救済新法、マイナンバーカードなど総務省が関わる重要課題がめじろ押しだ。

 地方にとっては来年度の予算編成を控え、地方財源の確保や税制改正などで総務省との関わりが重要になる時期だ。外形標準課税の見直しも取り沙汰されている。

 今国会の会期が来月までに限られる中、重要法案などの審議を速やかに進めるには、もっと早く判断するべきだった。

 対応の遅れが批判された先の更迭を教訓にできなかった首相の危機管理能力が疑われる。

 寺田氏は首相と同じ広島選出で、葉梨氏と共に岸田派の所属だ。「身内びいき」があったとしたらあきれるばかりだ。

 首相は陳謝とともに「政治責任は結果を出すことで果たす」と述べた。約束は守ってもらいたい。