温室効果ガスを多く排出してきた先進国が、気候変動で大きな被害を受けている発展途上国を支えるのは当然だ。

 基金設立の合意を温暖化対策の弾みにしたい。

 エジプトで開かれていた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が、期間を2日間延長して閉幕した。

 焦点の一つだった、気候変動で途上国に生じた被害に対する支援基金を設立することで合意した。防災に取り組んでもなお生じる「損失と被害」への手当に特化した初の基金だ。

 気候変動への責任はほとんどないのに、海面上昇で国土が浸食される小島しょ国が1990年代から提起しており、ようやく悲願がかなった。

 歴史的進展であり評価できる。

 被害額は、2050年には年1兆ドル(140兆円)に上るとの試算もある。先進国はこれまで巨額の資金負担を懸念して反対してきたが、歩み寄った。

 国土の3分の1が浸水したパキスタンの大洪水など、途上国での深刻な気象被害が広がっている。議長国のエジプトなどアフリカ諸国も含めて、基金への要求が高まっていた。

 ただ、運営細則は来年の会合で決めることになった。利用しやすく規模の大きな支援ができるよう今後の議論を期待したい。

 基金の拠出元は先進国だけでなく、中国のような温室効果ガス排出量の多い新興国や民間慈善団体も視野に入れている。

 排出量の多い国々は拠出に応じ、結束して基金を実効性のある仕組みにしてもらいたい。

 残念なことは、もう一つの焦点だった温室効果ガス排出削減で、加速のための強い対応を打ち出せなかったことだ。

 国連環境計画は、このまま対策を強化しなければ、世界の気温上昇幅が産業革命前と比べ2・8度に達するとし、1・5度以内に抑えるパリ協定の目標達成は不可能としている。

 温暖化による深刻な被害が出ている中、切迫した状況に応えられなかった。日本など先進国は、排出量を伸ばす中国やインドといった新興国に削減強化を訴え、猛反発に遭った。

 先進国は「脱炭素」への主導権を欠いた。とりわけ日本は首脳会合に岸田文雄首相が欠席し、存在感が薄かった。

 西村明宏環境相が、アジア太平洋地域で気象災害低減への支援を表明したが、日本の削減目標はパリ協定に合致しているとして強化の意思を示さなかった。国際社会の批判が強い石炭火力発電の廃止への道筋も掲げなかった。

 来年、日本は先進7カ国首脳会議の議長国となる。待ったなしの温暖化対策をリードする覚悟と実行力を示すべきだ。