サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会の初戦、日本はドイツに2-1で逆転勝ちした。

 日本にとっては因縁の地でつかんだ大きな勝利だ。この勢いで念願の8強入りを果たしてほしい。

 この大会では試合の勝敗以外にも注目しなくてはならないことがある。数十億人が視聴する大会で、「平等」と「共生」がしっかり守られるものになるかどうかだ。

 「ドーハの悲劇」から29年。同じ地で、日本サッカーが大きく成長したことを見せつけた。

 ドイツは、西ドイツ時代を含め過去4回の優勝経験がある強豪だ。日本はW杯で優勝経験国に勝ったことはなく、新たな歴史を刻んだといえる。

 森保一監督は「歴史的な瞬間、勝利であると言っても過言ではない」と語った。

 試合は前半、ドイツに押され続けた。PKで1点を先制されたが、後半は攻撃的な選手を送り込んだ采配が的中した。

 チームの総合力の勝利に拍手を送りたい。ただ、まだ1勝したに過ぎない。次戦以降も気を引き締め戦ってもらいたい。

 今大会で気になるのは、開催国カタールの人権問題だ。移民労働者や性的少数者の人権を侵害していると指摘されている。

 英紙は、スタジアム建設などで多くの外国人労働者が厳しい労働環境で働かされ、10年間で6500人以上が死亡したと報じた。

 カタールにとってW杯は国家プロジェクトで、巨大スタジアムを七つ新設するなど、インフラ整備を含め2290億ドル(約32兆円)以上を投じた。「最も金のかかったW杯」と言われている。

 また、イスラム教国カタールでは同性愛行為は違法とされるが、タミム首長は開幕セレモニーで「全ての人を歓迎する。多様性とそれらを結びつけるものを祝福することは美しい」と述べた。

 しかし、欧州の7チームが同性愛者などへの差別反対を示したキャプテンマーク(腕章)を着けようとしていたのを、政治的スローガンを禁止する国際サッカー連盟(FIFA)が突然「着用は処分対象になる」と通達した。

 大会組織委員会は着用の自由を認めており、カタール政府の圧力があったと指摘されている。

 ドイツチームは日本戦前の写真撮影で出場選手11人全員が口を手で覆い、意見を封じられたことへの抗議を示した。

 ブリンケン米国務長官はカタールでの会見で懸念を表明し、国際的な政治問題に発展しつつある。

 欧州では観戦ボイコットの動きも広がっている。

 W杯は世界の注目が集まり、影響力が大きい。

 大会組織委が「共生」を掲げていることを、カタール政府やFIFAはきちんと受け止めて、実現に力を合わせてほしい。