パワハラは認められなかったが、必要な対応を怠った責任は判決で厳しく批判された。
市は、職場環境に悩んでいた職員が命を絶った事実を重く受け止め、遺族に真摯(しんし)に向き合い、再発防止に力を尽くすべきだ。
新潟市水道局の男性職員=当時(38)=が2007年に上司のパワハラを受けて自殺したとして、遺族が市に損害賠償を求めた訴訟の判決で、新潟地裁は市に約3500万円を支払うよう命じた。
男性に対し必要な指導を怠った市の注意義務違反を認定した一方、パワハラは認めなかった。
訴状によると、男性は上司からしつこく説教を受けたり、不慣れで困難な業務を命じられたりし、精神疾患を発症して自殺した。「いじめが続く以上生きていけない」と記した遺書も残していた。
地方公務員災害補償基金新潟市支部審査会は11年、男性の上司の言動を「ひどいいじめ」と指摘し、民間の労災に当たる「公務災害」と認定した。
これに対し、水道局は内部調査でパワハラが確認できなかったとし、謝罪に応じなかった。このため、遺族は15年に提訴した。
地裁は判決で、上司の態度などにより職場に「質問をしにくいコミュニケーション上の問題」があり、業務の進捗(しんちょく)状況の確認や必要な指導をしなかった市に注意義務違反があるとした。
最大の争点だったパワハラについては、「認定するに足る十分な証拠がない」として退けた。公務災害認定時にパワハラを証言した同僚が証人として出廷しなかったことなどから、陳述書の信用性を認めなかった。
裁判が実態に十分迫れたとは言い切れない。市の責任を認めた判決に安堵(あんど)する一方、パワハラが認められなかったことに無念さを抱く遺族の心境は理解できる。
男性が自殺して15年、遺族が裁判を起こして7年が過ぎている。
問われるのは市の対応だ。
地裁は、男性が担当していた業務は「比較的難しく、男性が単独で行うことができるような能力や経験はなかった」と指摘した。
なぜ上司らは男性への適切な指導を怠ったのか。職員の管理が不十分だったことを、市は深く反省しなくてはならない。
遺族側は市からの謝罪と再発防止の徹底を求め、市側の控訴がなければ、控訴はしない方針だ。
これに対し中原八一市長は、男性に哀悼の意を表した上で、判決内容を精査の上、対応するとしている。慎重に判断してほしい。
水道局が昨年11~12月に行った職場アンケート調査では、直近1年にハラスメントを「された」が約15%、「見た」や「聞いた」もそれぞれ10%以上あり、問題の根深さをうかがわせる。
市は状況を深刻に受け止め、実効性ある対策を示す必要がある。
