報告書に沿って政府の方針がまとまれば、戦後の安全保障政策が大転換されることになる。装備の増強を押し進める前に、安保政策の在り方が十分に議論されなくてはならない。
防衛力強化に関する政府の有識者会議が、防衛力を5年以内に抜本的に強化し、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や、戦闘継続能力(継戦能力)向上が欠かせないとする報告書をまとめ、岸田文雄首相に提出した。
防衛費の財源を安定的に確保するには、国民全体で負担する必要があるとして増税を提起し、防衛装備品の移転拡大へ運用指針を緩和することなども盛り込んだ。
中国の台頭やロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射といった隣国の軍事的な緊張を背景にした政府の「軍拡路線」にお墨付きを与えるものだろう。
注目されたのは、反撃能力の保有を明記したことだ。
有識者会議では保有の必要性に異論は出なかったといい、佐々江賢一郎座長は「戦争を抑止するためには力を持たなければならない」と強く主張した。
反撃能力を巡り、政府は保有は可能とする立場だが、歴代内閣は米国の打撃力に依存し、実際には装備を保有しなかった。
報告書には、保有を促し、環境を整える狙いが透ける。
だが結論を出すまでの議論は計4回に過ぎず、拙速な印象があることは否定できない。
一方、有識者会議は、反撃能力の発動要件は「極めて政治的な判断を要する」として、政府、与党の協議に委ねた。
発動について政府は「他に手段がない」場合に限るとし、「必要最小限度の措置」「先制攻撃の禁止」のほか、日本が直接攻撃を受ける「武力攻撃事態」の認定も要件に含む方向で検討している。
専守防衛の考え方や、先制攻撃は許されないとの考えに変更はないとも強調する。
しかし、そもそも日本が保有を宣言すれば、周辺諸国に疑心を生み、軍拡競争を招きかねない。
保有に向けて、政府が既に攻撃型兵器の米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討していることも、前のめりに映る。
防衛費は国内総生産(GDP)比1%程度で推移してきたが、経済財政運営指針「骨太方針」は「GDP比2%」と表記した。
これに関し報告書は、具体的な税目を避けつつ、安定財源の確保が基本と強調し、国債発行を前提としないようにくぎを刺した。
財源論の前に必要なのは、外交や国際協力と合わせてどのような防衛体制をつくり、そのために必要な防衛力について議論を深め、国民に丁寧に説明することだ。
それを尽くす前に増税論が先走るのでは、国民の理解を得られるとは思えない。
