厳しい行動制限を強いる政策を続けていることに、不満と批判が噴出している。中国政府は、国民の声にしっかり向き合わなくてはならない。
中国全土で11月下旬から、新型コロナウイルス対策の「ゼロコロナ」政策に反対する抗議行動が起きている。首都北京では千人近い大規模デモが発生し、上海や広東省広州などでも広がっている。
「個人独裁は要らない」などと習近平国家主席を批判する声も強まっている。2012年の習指導部発足以降、北京などでの本格的な政府批判活動は初めてだ。
ウイルス対策への不満が政治改革を求める抗議に発展すれば、当局が学生らを武力鎮圧した天安門事件につながった1989年の民主化要求運動以来となる。
デモの発端となったのは、新疆ウイグル自治区の高層住宅で起きた火災だ。ゼロコロナ政策で周囲が封鎖されていたため、救助が遅れ、多くの犠牲者が出たとの批判が広がった。
北京や上海などでは市民が集まって白い紙を掲げ、「隔離を解除せよ」と連呼を始めた。白い紙には言論の自由を認めない政権への批判が込められている。
市民の生活は、ゼロコロナ政策に基づくロックダウン(都市封鎖)の長期化で自由を奪われている。多くの工場や商店も閉鎖され、経済活動は低迷している。
不満を募らせた国民が強く抗議するのは理解できる。
これに対し、習指導部は政府批判を強硬に抑え込む姿勢をみせる。デモ参加者を連行したり、学生らに参加しないよう圧力をかけたりしている。
中国は、天安門事件などこれまでのデモや政府批判の動きを、欧米を念頭に「敵対勢力」と結び付けて取り締まってきた。今回の抗議活動も同様の口実で鎮圧するつもりだろう。
しかし、習指導部の作戦が狙い通りに進む保障はない。
中国国内の感染者数は最多記録を連日更新している。習氏が共産党の成果と誇示して継続してきたゼロコロナ政策が行き詰まっているのは明らかだ。
中国政府に求められるのは強権的な手法を続けるのではなく、国民の暮らしと経済を守るための柔軟な対応である。
厳格な防疫措置を巡って、政府は柔軟姿勢もアピールし始めた。
29日の記者会見では、地区ごとのロックダウンについて「解除すべきは素早く解除する」と強調した。北京市の一部では、不必要な人はPCR検査を毎日受けなくてもよいとした。
状況を踏まえた対応が不十分では、社会の不満はますます鬱積(うっせき)し、政権への批判が高まるのは必至だ。中国は、国民に納得のいく感染対策をきちんと打ち出す時期に来ている。
