被害に苦しむ人を広く、確実に救うための法律でなくてはならない。与野党は、実態に即して必要な修正を重ね、実効性の向上に努めてもらいたい。
政府は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡る被害者救済新法の法案を国会に提出した。6日に衆院本会議で審議入りし、10日に会期末を迎える臨時国会での成立を目指す。
法案は、不当な寄付勧誘を防ぐため禁止行為を定め、罰則を設けた。法人の配慮義務も掲げた。
被害救済では、寄付した人の扶養する子や、配偶者による寄付の取り消しを可能にした。
議論は当初、野党の立憲民主党と日本維新の会が主導して法案を共同提出し、自民、公明両党との異例の与野党協議に持ち込んだ。
今国会での法案提出にこぎ着けたことは、被害者救済に向かう第一歩として評価できる。
一方で内容は曖昧な点が残り、救済範囲の狭さも指摘される。
与野党協議では、当事者に対するマインドコントロール(洗脳)が焦点になった。野党はマインドコントロール下での寄付に規制を求めたが、与党は定義が難しいとして法案に明記しなかった。
代わりに「自由な意思を抑圧して適切な判断ができない状況にしない」「個人や家族の生活の維持を困難にしない」といった法人に対する配慮義務規定を設けた。
ただ規定はあくまで配慮を求めるもので、罰則がない。実効性を確保するには心もとない。
新法は、消費者契約法の考え方を援用し、法人や団体が寄付を受ける際に「勧誘を受ける個人を困惑させてはならない」とした。
しかし実態は、消費者契約法上の「困惑」に当てはまらない恐れがあると、霊感商法に詳しい弁護士は指摘する。教義による使命感などで自ら進んで寄付しているように見えるケースが多いためだ。
政府は、不当勧誘が明確な寄付は取り消し対象となるが、信者が使命感や義務感に駆られて寄付した場合は救済が困難な場合もあるとしている。
適切な判断ができない状況下で行われた寄付について、さらに掘り下げた議論が欠かせない。
家族救済の仕組みでは、子や配偶者が返還請求権を行使できるとする規定が盛り込まれたものの、扶養家族しか対象にならないために範囲が狭く、救済は非常に難しいとみられている。
資金調達のために処分の要求を禁じる財産の種類も限定的だ。
岸田文雄首相は、新法が成立した場合には「条文解釈の明文化を図り、被害者救済の成果へつなげる」と述べた。
救済範囲が狭く、救うべき人を救えなくては、立法の趣旨が損なわれる。国会は、被害者に資する法律となるように、十分審議を尽くしてもらいたい。
