防衛力強化の名の下に学問の独立性が損なわれ、学術界への過度な介入につながる恐れがある。軍民両用で利用可能な技術研究の推進には慎重な議論が必要だ。
政府は、民間が持つ最先端技術の安全保障分野への転用を進めるため、2024年度にも防衛装備庁に新たな研究機関を創設する考えを示している。
無人機や人工知能(AI)、量子といった大学や企業が取り組む研究を基礎段階から把握し、資金面などを支援することで防衛力強化につなげるのが狙いだ。
新たな研究機関の創設は、学問と軍事の結びつきを強める大きな転換点になりうるだけに、注視しなければならない。
日本学術会議は、科学者が戦争目的の研究に従事した過去の反省を踏まえ、軍事に関わる研究とは距離を置いてきた。
これに対し、岸田文雄首相は防衛力強化に関する有識者会議で、「官民の研究開発などでの縦割りを打破する」と強調する。
政府が民間の先端技術導入を急ぐ背景には、各国の兵器や通信技術の高度化に対し、国主導の研究開発だけでは限界があるとの焦りがあるからだ。隣国の中国や北朝鮮、ロシアの軍事的脅威が増していることも要因だろう。
だが政府側の関与が広がることには懸念も募る。
防衛装備庁は15年度に「安全保障技術研究推進制度」を始めた。軍事技術に応用可能な基礎研究に費用を助成する仕組みで、予算規模は毎年度100億円に上る。
資金不足に悩む大学や民間企業にとっては魅力だ。一方で学術会議は17年に「政府による介入が著しく、問題が多い」との声明を出していた。
ただ、学術会議側も揺らいでいる。今年7月には、軍民両面で利用可能な技術の研究を事実上、容認する見解を公表した。「時代に即して洗練させた」と説明する。
衛星利用測位システム(GPS)や無人機など、最近の技術研究は軍民の線引きが難しくなっている現実がある。
学術会議に対しては、菅義偉前首相が20年9月に新会員候補の任命を拒否するなど、政府の圧力が強まっている。
政府は6日、学術会議の組織形態見直しに関し、会員選考に第三者を関与させることなどを盛り込んだ方針を公表した。
第三者の関与の度合いによっては、学術会議の独立性を損ないかねず、慎重であるべきだ。
学術会議関係者は、政府が進める軍事への技術転用について「研究の自由と成果の公開が担保される仕組みが必要だ」と指摘する。
政治の力で研究者が軍事貢献に突き動かされるようなことがあってはならない。政府は研究者の懸念にしっかり耳を傾け、議論を重ねていくことが欠かせない。
