被害者を支える一歩にはなるが、実効性の確保にはなお課題を残している。国は法施行後の推移をしっかり検証し、実態を踏まえた見直しへ議論を続けるべきだ。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済法案が8日、与党と立憲民主党など野党の賛成多数で衆院を通過し、参院本会議で審議入りした。政府は会期末の10日に成立させる意向だ。
法案は宗教団体など法人への寄付を対象に、不当な勧誘を規制するものだ。「霊感」で不安につけこむなど6類型を示して禁じ、寄付の取り消し権を設けている。
これにより旧統一教会の信者を親に持つ「宗教2世」や、寄付した人の配偶者が本人に代わって返還を求めることが可能となる。
教団への多額寄付などで苦しい生活を強いられてきた被害者を救済する道がようやくできる。
国会の議論では、政府が当初示した法案では救済の実効性が確保できないとの懸念が強く、どう修正するか与野党の協議が焦点になっていた。
与党は法案に盛り込んだ「個人の自由な意思を抑圧しない」といった勧誘する側の配慮義務規定に関し、「十分に配慮」とより強い表現に変え、怠った場合は勧告や公表を行うと修正した。
施行後3年としていた見直し規定も2年に短縮するとした。
野党側が求めていたマインドコントロール(洗脳)下での寄付については、岸田文雄首相が本会議で「(禁止行為として)取り消し権の対象となる」との見解を示した。こうした与党の対応に立民の姿勢が軟化した。
ただ被害者からは、首相の発言について「本気でそう考えているなら法案に明文化を」と求める声が上がる。被害者を支援する弁護士の間では、修正案は禁止行為ではなく配慮義務にとどまり、実効性に欠けるとの批判が依然強い。
国は被害者に寄り添い、法施行後は法令違反がないか情報収集するなど注視すべきだ。法改正が必要ならためらってはならない。
与野党が歩み寄った背景には、支持率低下にあえぐ中、国会で成果を出したいとの岸田首相の狙いがあった。
野党側は立民と共闘した日本維新の会が修正案を早くから評価し、共闘維持と世論を意識した立民も着地点を模索していた。
法案審議が短期間に進展したことは評価できるが、宗教2世の人権など、被害者を巡る問題は多岐にわたり、まだ不十分な面があることを忘れてはならない。
一方、共同通信社が行った宗教法人へのアンケートでは、多数の教団が寄付取り消しに賛成と答えたが、「信教の自由」侵害を懸念する声も目立った。
政府には、法の目的や内容を宗教法人側に丁寧に説明していくことを求めたい。
