防衛費増額の必要性について国民の理解が深まる前に、税負担を伴う予算措置を強引に進めようとする姿勢は、あまりに拙速で看過できない。
岸田文雄首相は、防衛力の抜本的強化・維持に向け、2027年度以降に毎年度必要だとする約4兆円の追加財源のうち、1兆円強を増税で賄う方針を示した。
23年度からの5年間は、防衛費を総額約43兆円に増やす。
10日の臨時国会閉会後の記者会見では、防衛費の増額に伴う増税方針を「未来の世代に対する責任だ」と強調し、国債発行で対応する可能性は明確に否定した。
与党税制調査会は増税の税目や方式、実施時期を含めて検討する方向だが、今週中の財源確保決定は波乱含みとなっている。
政府が検討している財源確保策には問題が多く、特に増税方針は自民党内だけでなく閣僚からも反対論が噴出しているからだ。
首相はこれまで「防衛力強化の内容と予算、財源」をセットで議論していくと強調してきた。
防衛力強化に関する政府の有識者会議が11月下旬にまとめた報告書を受け、27年度に防衛費と関連予算を現在の国内総生産(GDP)比2%に達する予算措置を講じる方針を明らかにした。
しかし、今年夏の参院選で公約していない増税方針に踏み込んだことで、自民党内でも「寝耳に水」との反応が広がった。党内での議論も伴わず、首相の独断ぶりがうかがえる。
首相は来年度の増税は行わず、複数年かけて段階的に実施する方針も明らかにしている。法人税の増税を軸に検討を進め、所得税は上げないとの考えだ。
ところが政府内では東日本大震災後に創設した「復興特別所得税」を転用し、37年末までの時限措置を延長する案を検討している。
事実上の所得増税となるものだ。復興予算を賄う目的を変え、恒久化することになり、小手先の手法と言わざるを得ない。
法人税引き上げについては、景気を冷え込ませ、賃上げに水を差すとの懸念が出ている。
一方で、自民議員には国債による財源確保を求める意見も根強いが、将来世代の負担となる上、防衛費増に歯止めがきかなくなる恐れがある。
政府が増税分を除き、歳出改革や剰余金の転用などで賄うとしている約3兆円の財源も一時的なもので、安定財源の確保には遠い。
安全保障政策の転換となる反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に向け、政府は大量の外国製ミサイル購入などを検討している。
防衛費を最優先にした予算編成で、日々の暮らしに必要な財源が削られることがあってはならない。政府に求められるのは場当たり的な財政論議ではなく、国民が納得できる方向性を描くことだ。
