教訓が全く継承されず、これほど多くの若い刑務官が、受刑者に暴力を振るっていたのはなぜなのか。背景と要因を徹底的に解明しなくてはならない。

 法務省は、名古屋刑務所で昨年11月から今年8月にかけ、刑務官22人が受刑者3人に対し暴行を繰り返していたと発表した。

 顔をたたくほか、新型コロナウイルス対策用のアルコールスプレーを顔に噴射したり、サンダルで尻をたたいたりしていた。

 8月下旬に受刑者の1人のまぶた付近の傷から暴行が発覚した。

 暴行した刑務官は20~30代で、採用3年未満が22人中16人だった。おおむね暴行を認め「受刑者が指示に従わず、大声で要求を繰り返していた」と説明している。

 罪を犯した人たちを更生させる立場にある者が、その人たちに対し暴行を繰り返していたというあるまじき行為だ。

 法務省は刑事事件としての立件を視野に検察当局と調整する方針だ。個人の刑事責任だけでなく、組織としての問題点も解明しなくてはならない。

 名古屋刑務所では2001年から02年にかけても、消防用ホースによる放水や革手錠での締め付けといった暴行で受刑者3人が死傷する事件があった。

 この事件により受刑者の権利義務を明確化し、刑務所の運用改善を図る受刑者処遇法(現・刑事収容施設法)が整備された。

 刑務所改革の契機になった名古屋刑務所でまたしても暴行事件が起きたことに憤りを覚える。

 受刑者処遇法を基に設置され、民間人が刑務所の運営をチェックする刑事施設視察委員会が今年3月、職員の言動や応対に対する不満が相当数あるとして刑務所側に対策を講じるよう求めていた。

 見過ごせないのは、名古屋刑務所は「不当な言動などなかった」と回答したが、ずっと暴行は続いていたことだ。

 視察委の要請を真摯(しんし)に受け止めていたとは言えない。施設長ら幹部職員の責任は大きい。

 若い刑務官は、ウイルス禍で初等科研修などが十分に行われず、受刑者に反発された際の対応スキルがしっかりと身に付いていなかったとも指摘されている。

 だとすれば、全国の刑務所でも、同じような事態が起きている可能性がある。法務省は、全国の刑務所を急いで調査してほしい。

 愛知県警岡崎署では、留置場で勾留中の男性が死亡した。男性は戒具を着けられ、複数の署員から足で蹴られていたという。

 名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ人女性が死亡した問題でも、人権上の配慮を著しく欠いていた。

 いずれも人権に対する意識が希薄だと言える。法務省は問題の深刻さを重く受け止め、刑務官ら職員の教育に努めねばならない。