特定の政策目標を達成するための優遇措置が前面に出た。税の公平感を意識し、行きすぎた優遇策の是正にかじを切るべきだ。
自民、公明両党は2023年度の与党税制改正大綱を決めた。
防衛費増額の財源確保策を除くと、小口の証券投資を促す少額投資非課税制度(NISA)の拡充や、超富裕層への課税強化策の導入などが柱だ。
NISAについては、年間投資枠を360万円に拡大し、生涯の投資上限を1800万円とする。非課税期間の制限をなくし、時限措置だった制度を恒久化する。
日本の個人金融資産は2千兆円規模で、その半分以上が預金や現金で保有されている。これを投資に向けることで企業価値の向上、賃上げにつなげる狙いがある。
岸田文雄首相が掲げる「資産所得倍増プラン」の目玉だ。今後5年間でNISAの投資額を56兆円に倍増させる目標を掲げている。
ただ、低所得層にとって多額の投資は容易ではなく、上限額いっぱい投資できる人はどれだけいるのか。運用益が必ずしも所得の底上げにつながるとは言い難い。
経済状況によっては元本割れのリスクもあり、投資初心者らには金融教育が欠かせない。
日本の賃金がこの30年間あまり上昇していないのは、成長企業が少ないからだとの指摘もある。魅力的な企業が育たなければ投資額倍増の達成は難しい。
一方、金融所得が多いほど所得税負担率が下がる「1億円の壁」と呼ばれる逆転現象を是正するため、年間所得30億円を超す超富裕層には課税を強化する。
NISA拡充で受ける「金持ち優遇」との批判を避けようと判断したとみられる。
だが対象の見込みは200~300人に過ぎず、岸田氏が総裁選で主張した「壁の打破」にほど遠い。国民に丁寧に説明しながら、対象拡大を検討してもらいたい。
相続・贈与税の一体的な見直しでは、子や孫への生前贈与を巡って「駆け込み贈与」を防ぐ措置を拡大、生前の早い段階での資産移転を促し、消費の拡大を目指す。
これとは別に、教育資金などを一括で贈与すると非課税になる特例措置については、専門家らが「世代を超えた格差の固定化につながる」と廃止を求めていたが、延長が決まった。格差是正への本気度が疑われる。
気がかりなのは、エコカー減税制度の延長は決めたものの、自動車関連税制で「利用に応じた負担の適正化」を訴えたことだ。
電気自動車向けに走行距離や出力に応じた課税に含みを残した表現で、車での移動が不可欠な地方には負担増となる懸念がある。
首相は「経済成長と賃上げを実現し、負担感を払拭(ふっしょく)できるよう努力していく」と述べた。約束は必ず果たさなくてはいけない。
