市場の圧力が「異次元緩和」の修正を促したといえる。止まらない物価高や円安など暮らしに与える影響を注視し、適切に対処していくことが強く求められる。
日銀は金融政策決定会合で、金利を極めて低い水準に抑え込む大規模な金融緩和策を見直し、長期金利の上限を従来の0・25%程度から0・5%程度に引き上げることを決めた。
金利は上げないとしてきたこれまでの方針を転換し、事実上の利上げに踏み切った。
黒田東彦(はるひこ)総裁は最近まで長期金利の上限引き上げについて「明らかに金融緩和の効果を阻害する」として明確に否定していた。
今回の決定については「金利引き上げではない」と述べ、市場機能の改善が狙いと強調した。大規模緩和からの「出口戦略の一歩ではない」とし、景気に全くマイナスにならないとも語った。
市場関係者の多くは、この説明を文字通りには受け止めておらず、日銀の突然の転換に驚きや戸惑いが広がっている。
黒田総裁の説明には一貫性がなく、信用を低下させる恐れがあるとの指摘も出ている。市場の混乱を招かないよう、丁寧な対応に努めていくべきだ。
今回の方針転換は、日銀による金利の抑え込みに限界が生じたことが背景にある。
日銀は長期金利の指標となる10年国債を無制限に購入し、利回りが0・25%程度を超えないよう抑制してきた。
その結果、9月末には政府の借金である国債の半分を日銀が保有する異例の事態となった。
記録的なインフレが続く米国が大幅な利上げを繰り返す中で、海外発の金利上昇圧力はやまず、識者からは異次元緩和策をかたくなに続ける日銀の姿勢に批判や疑問が上がっていた。
今回の政策転換のタイミングは適切だったのか。
事実上の利上げは、物価高騰の要因となっている過度な円安の是正につながるとみられる。
一方で、企業の借り入れや個人の住宅ローンの利払いに負担が増える可能性があり、景気に悪影響が生じかねない。賃上げ機運に冷や水を浴びせるリスクもある。
黒田総裁は来年4月の任期満了で退任する見通しだ。今回の修正は今後のさらなる政策見直しに向けた布石との見方もある。
岸田政権は、異次元緩和の根拠となってきた政府と日銀の共同声明を改定する方針だ。金融政策の幅を広げる方向で検討し、次期総裁と協議して決めるという。
求められるのは、物価と賃金がともに上昇する経済の好循環だ。
日銀は経済の動向を踏まえた長期戦略を練り直し、金融市場の安定化に注力してもらいたい。政府は日銀と連携し、効果的な政策を打ち出す責任がある。
