ずさんな安全管理だったことが改めて浮き彫りになった。人災だと糾弾されるべきだ。乗客の命を預かる観光船事業者の責任が厳しく問われねばならない。

 国の監査や船舶検査にも不備があったと指摘された。惨事を二度と繰り返さないために、国や事業者は指摘を肝に銘じて徹底した安全対策を必ず講じねばならない。

 北海道・知床半島沖で4月に、観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没し乗客乗員20人が死亡、6人が行方不明になった事故で、原因を調べている運輸安全委員会が経過報告を公表した。

 船首付近の甲板にある約50センチ四方のハッチのふたが密閉されず、海水が入ったと推定。船内を仕切る隔壁にあった開口部を通じ浸水が広がり、沈没したとしている。

 事故2日前の救命訓練では、ハッチのふたが固定できない状態だったという。ハッチの閉鎖は当然の義務だ。最低限のことすらせずに船を動かしていた。

 安全委はさらに、出航判断や運航会社の安全管理規程の軽視が重なり事故になったと指摘した。

 事故当日は、強風・波浪注意報が出されていた。船長は、同業の仲間から「行ったらだめだぞ」と声をかけられながらも出航したことが分かっている。

 安全意識の欠如は明らかだ。安全管理をきちんと講じていれば防げたはずの事故だった。遺族の憤りや悔しさは計り知れない。

 事故直後には、カズワンの運航会社「知床遊覧船」は、いくつもの安全管理規程に違反していたことが判明している。

 また、国の監査では、不在の社長に電話で聞き取るだけで、「安全と法令順守意識の向上を確認できた」と評価していた。

 国の検査を代行する日本小型船舶検査機構は、会社が通信手段として届け出た携帯電話について、航路の大半で通信エリア外だったのにもかかわらず、船長の「つながる」との説明をうのみにし、認めていた。

 あまりにもおざなりの検査だ。なぜ聞き取りだけで済ませたのか。安全を守る監督官庁として、国側の責任は重大だ。

 国土交通省の有識者委員会は22日、法令違反した事業者の厳罰化などの安全対策をまとめた。拘禁刑の創設や、行政処分に船舶使用停止命令を新設した。

 報告を踏まえ、出航前にハッチの密閉確認の徹底のほか、設備面ではドライブレコーダーや、水に漬からず救助を待てる改良型いかだの搭載を義務付けた。

 通信設備として携帯電話は認めず業務用無線か衛星電話の配備を求めた。国の検査では、検査への立ち会いなどを明記した。

 安全安心な船であるために、事業者や検査に当たる国の機関は、人命最優先を常に考えて取り組んでいかねばならない。