慎重に取り扱うべき安全保障に関する機密情報を、その道のプロがOBに漏らすとはあぜんとする。関係諸国との信頼関係を揺るがしかねない過ちだ。

 背景には組織に独特の上下関係があるとみられている。防衛省は失態を重く受け止め、管理体制の問題をしっかり検証すべきだ。

 「特定秘密」を外部に漏らしたとして、自衛隊の警務隊は特定秘密保護法と自衛隊法違反容疑で海上自衛隊の1等海佐を横浜地検に書類送検した。防衛省は懲戒免職の処分をした。

 特定秘密保護法は2014年に施行され、摘発は初めてだ。防衛省はほかにも当時の海自トップら3人を処分した。

 防衛省によると、1佐は20年3月、自衛艦隊司令官を務めた元海将のOBに対し、日本周辺の情勢に関する収集情報を漏らした。故意だったことを認めている。

 元海将はその2カ月前、講演会の準備を理由に最新の安全保障情勢の説明を海自側に求め、1佐が説明を担当することになった。

 漏らした中には自衛隊の運用や訓練など秘密情報もあった。元海将からさらに別の人物などに流出はしていないとしている。

 1佐は、海自の活動に必要な情報の収集分析に当たる情報業務群のトップだった。機密を扱うプロ中のプロでありながら、その自覚が欠如している。

 元海将とは上司部下の関係だった時期があった。調査に対し、1佐は元海将に「畏怖の念」を抱き、「できる限り興味、関心を引きたかった」とも話している。

 同様の漏えいは15年にも起きている。この時も元陸将の有力OBが元部下の現役陸将に提供を持ちかけていた。

 今回と重なる構図であり、ゆがんだ組織体質の根深さをうかがわせる。自衛隊という閉ざされた組織の論理と評価で出世してきた人間同士の濃密な関係が、事件の要因にあるのではないか。

 防衛省は教育の徹底などの指示を出し、再発防止検討委員会を設置した。問題の根源まで掘り下げて調べることが欠かせない。

 今回の事件は、米軍など他国軍との情報交換に支障を来す恐れがある。政府は信頼回復に力を注がねばならない。

 注意したいのは、特定秘密保護法の位置付けだ。

 保護法は、安全保障上の政策判断や自衛隊の活動に必要な秘匿性の高い情報が流出しないようにするのが狙いだが、政府の恣意(しい)的な判断で秘密の範囲が広がるとして批判も根強い。

 防衛省を含む省庁が指定する特定秘密は現在約700件あり、国民は何が秘密指定されているのか知るのも困難となっている。

 民主主義の根幹である「知る権利」が妨げられてはならない。この点にもしっかり目を向けたい。