政治家を国葬の対象者にすることは難しいとの見解が示された。政治には多様な評価がなされる以上、当然の見方だ。
岸田文雄首相は「一定のルール」作りを約束した。判断が分かれたことからすれば、実施の是非そのものから議論する必要がある。
政府は、安倍晋三元首相の国葬を検証する有識者ヒアリングに基づく論点整理を公表した。検証の「たたき台」に当たる。
憲法や行政法の大学教授や新聞・通信社の論説担当者ら21人から法的根拠や国会関与、実施の意義などを論点に聞き取った。
国葬を巡り国民の賛否が割れたことを踏まえ、実施には政府や国会の事前調整が必要だったとの見解が相次いだ。
国費を用いた国葬は超党派の支持が望ましいのに、合意形成の努力が不十分だったと指摘された。
与野党と国民の間で了解が得られていれば「これほどの混乱にならなかった」との苦言もあった。
岸田首相は安倍氏死去から1週間もたたない中で国葬実施を表明し、その後も国民や国会に納得のいく説明をしなかった。こうした姿勢が厳しく問われた。
注目したいのは、政治が極めて多様な側面を持つことを理由に、国葬対象者の基準策定は困難だとの意見が集まったことだ。
「前もって定めた一律の基準で首相経験者の業績は判断できない」「為政者を評価する人もいれば評価しない人もいる。基準を作るのは不可能」などと示された。
安倍氏については、政策実行能力などが評価される半面、森友・加計学園や「桜を見る会」の問題など負の側面も多い。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関わりも指摘されている。
今回のヒアリングは聞き取った意見を整理するだけで、ルールの在り方など政府としての方向性は一切打ち出さなかった。
野党が求める実施基準の策定は不透明で、法的根拠についても「行政権の行使で、法律は必要ない」「法律の根拠を要する」などの両論併記にとどまった。
なぜ国葬実施にルールが必要なのか、原点に立ち返るべきだ。時の政府が恣意(しい)的に決めることがあってはならないからだ。
政府と別に、衆院は議院運営委員会で独自に国葬を検証し、国会の関与が必要だと大方の意見が一致したと報告書に明記した。
政府は国会に適時・適切に情報提供するべきだとも強調した。
国葬が世論の分断を招いたという共通認識の下で与野党が一致した重みを受け止めてもらいたい。
通常国会で政府は国会関与の在り方に絞って議論の進展を狙う。野党には基準策定を求める意見もあり、調整は難航が予想される。
政府は検証を追認に終わらせてはならない。批判をかわすための作業では国民は納得できない。
