新型ウイルス禍、物価高、円安の三重苦は、人々の暮らしに大きな負担を強いている。

 逆境をどう克服し、地域経済の再生を図っていくか。官民で知恵を出し合い、しっかり後押ししていきたい。

 今年の経済動向で最大の焦点は、賃金と物価がともに上昇する「経済の好循環」をどう実現していくかだろう。

 総務省が昨年12月に発表した11月の全国消費者物価指数は前年同月比3・7%上昇した。上昇は15カ月連続だ。

 一方、賃金は長年ほぼ横ばいで推移してきた。

 労働団体の連合は、今年の春闘で5%程度の賃上げを求める闘争方針を決めた。28年ぶりとなる高い水準だ。

 これに対し、経営側は賃上げに理解を示しつつも、円安や物価高で業績を悪化させている企業は少なくないとしている。

 ◆好循環へ「宝」を磨く

 厳しさを増す家計を下支えするには、高い賃金上昇を行き渡らせることが重要だ。消費が上向き、経済成長にもつながる。

 経営側にはこれまで以上の賃上げ努力が求められる。生産性を向上することも欠かせない。

 岸田政権は、賃上げにつながる実効性ある企業支援と成長戦略を明確に示すべきだ。

 県内経済は、日銀の12月の企業短期経済観測調査(短観)で、企業の景況感を示す業況判断指数が全産業で9月の前回調査から3ポイント上昇のマイナス1となり、2四半期ぶりに改善した。

 製造業で設備投資需要が堅調となり、宿泊・飲食サービス、小売りなど幅広い業種で改善していることが要因だ。明るい兆しが見えてきたのだろうか。

 地域経済の連携を目指して始まった活動を紹介したい。

 燕市の企業「つくる」は、金属加工産業が盛んな燕三条地域の魅力を伝えるツアーなどを手掛ける。鎚起(ついき)銅器の玉川堂(燕市)の番頭、山田立(りつ)さん(49)が社長を務め、2020年に旅行業の免許を取得した。

 10年前、燕、三条両市や山田さんら製造業関係者が実行委員会を組織し、ものづくりの現場を開放する「燕三条

 工場(こうば)の祭典」が始まった。感染禍前の19年は4日間で延べ5万6千人が訪れるイベントに成長した。

 工場を見学し交流を深めることで、製品の良さを実感してもらえるようになったという。

 ただ、山田さんはそれで満足せず、通年の産業観光を進めたいと考えた。県内各地のイベントや地場産業などとも連携の輪を広げたいと先を見据える。

 昨年からウイルス禍の行動制約が緩やかになり、ツアーの申し込みも出てきた。

 山田さんは「10年前は町工場が観光資源になるとは思ってもみなかった。産業観光を進めることで、次世代への技術継承にもつなげたい」と語る。

 足元に隠れた「宝」がある。燕三条の試みは、地域ビジネスに好循環を生み出すヒントになるのではないか。

 ◆自給力の向上着実に

 ロシアによるウクライナ侵攻の影響で生じた食料高騰は、自給力の重要性を再認識させた。

 政府は国民の食を安定的に確保する食料安全保障の強化に向け、輸入に頼る小麦や大豆の国産化や、堆肥などの国内資源の活用を促進する方針だ。

 小麦や大豆は、消費の減少が続くコメの転作作物として主に生産されてきた。今以上に生産を増やすには、国の手厚い支援が不可欠だ。

 本県は米粉の活用に力を入れてきた。高騰した小麦の代用として改めて注目されている。

 この好機を生かし、さらなる需要の掘り起こしを進めたい。米粉を使った製品開発や効果的な販売戦略が求められる。

 残念なのは、21年の農業産出額で本県が前年より257億円少ない2269億円となり、1974年以降で最低となったことだ。都道府県別順位も過去最低の14位となった。

 ウイルス禍の需要減などに伴う米価下落と収量の落ち込みが大きな要因だ。コメに依存する本県農業の特性が改めて浮き彫りになったといえる。

 県は、園芸作物への転換やコメの輸出に力を入れているが、スピードアップが必要だ。生産者の意欲を引き出す施策の強化に一層取り組んでほしい。

 離農や高齢化が進む一方、若い就農者が働き、地域を支えているケースもみられる。新たな力をしっかり育てながら、本県農業の再生の道を歩みたい。