「異次元の少子化対策」をうたう以上は、聞こえのよい政策を打ち出すだけでなく、裏付けとなる財源論議を避けてはならない。岸田政権には、実効性ある道筋を明確に示す覚悟が求められる。

 岸田文雄首相は年頭の記者会見で、将来的な子ども予算倍増に向けた大枠を6月の経済財政運営指針「骨太方針」策定までに示すと明らかにした。6日には、少子化対策強化に向け有識者らでつくる会議の設置を指示した。

 首相は会見で「異次元」との表現を使い、子育て支援の拡充に強い意欲をみせた。具体的には、児童手当など経済的支援の強化、子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進と育児休業制度の強化の3点を挙げた。

 これらは政府の「全世代型社会保障構築本部」が昨年12月に決定した報告書を踏まえたものだ。

 報告書の議論は、首相が打ち出した防衛力の抜本強化に伴う防衛費増の陰に隠れ、財源確保策に踏み込めないまま終わった。

 新たな少子化対策の会議では、経済支援策のほかに、学童保育や産後ケアといったサービス拡充などもテーマとなる。

 3月末をめどに、たたき台となる方針をとりまとめ、具体的な財源確保策は4月以降になる見通しだ。支援の拡充には数千億円以上の予算が必要とされる。

 子育て支援策と財源はセットで論議していくのが筋だろう。首相は、防衛費の財源で唐突に増税方針を打ち出し、批判を招いたことを忘れてはならない。

 自民党内からは消費税増税も含めた議論が必要との発言が出ている。一方、首相は2年前の総裁選で消費税を「10年程度は上げることは考えない」と述べている。

 子育て関連では企業が負担する「事業主拠出金」があり、これを増やす案も取り沙汰されている。

 日本の子育て支援への公的支出は先進国の中で低い水準だ。子育て政策を含む2020年度の家族関係支出は国内総生産(GDP)比約2%で、3%前後の欧州主要国に及ばないとのデータがある。

 4月の統一地方選を控え、財源論議は政権運営の火種になりかねないとの指摘があるが、首相は腰を据えて取り組み、国民に丁寧に説明していくべきだ。

 保育を巡っては通園バスでの園児置き去りや虐待が問題となった。保育現場の質の低下や人手不足も背景にあるとみられる。

 首相は「量と質の両面で強化を進める」との考えを示しており、着実に改善させる必要がある。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、出生数は想定以上に低迷している。22年は初めて80万人を下回る可能性がある。

 子育てしやすい環境は、社会全体の支え合いが欠かせない。政府にはそうした意識の醸成にもしっかり取り組んでもらいたい。