あまりにも一方的で理解しがたい措置だ。中国がこれまで強調してきた「対等の原則」にも矛盾していることは明らかだ。
中国政府は摩擦を激化させるのではなく、冷静に対応することを求めたい。
中国は10日、日本と韓国で中国に渡航するビザ(査証)の発給手続きを停止した。11日には、第三国へ向かう乗り継ぎ時に中国に一時入国できる優遇政策などを停止する追加措置も発表した。
ビザ発給停止は、ゼロコロナ政策をやめた中国で新型コロナウイルスの感染者が爆発的に拡大していることを受け、日本や韓国が水際対策を強化したことへの対抗措置とみられる。
日本外務省は抗議し撤回を求めたが、中国の秦剛外相は「日韓が中国国民の往来に差別的な措置を取った」と日韓を名指しで批判して正当性を強調した。
中国は日本の水際対策強化を政治的な動きと捉えているかのような対応だが、その認識は違う。
世界保健機関(WHO)は、中国が感染・死者数を過少報告していると指摘している。中国は12日までに発表を取り止め感染実態がますます不透明になり、各国は不安を募らせている。
今月下旬から中国は春節(旧正月)の連休に入る。国民が大規模に移動し、さらなる感染拡大は必至とみられ、特に医療体制が十分に整っていない農村部の状況が心配される。
新たな変異株にも警戒せねばならず、日韓や欧米などが、中国からの水際対策を強化したのはやむを得ない。
中国は国内の感染実態を把握して、国際社会の不安払拭に努めることが必要だ。
ウイルスの封じ込めには、国際的な協力が欠かせないことを踏まえると、中国の対応は残念だ。
中国は日本の水際対策に「対等の措置を取る」とする。しかし、日本はウイルス検査の義務付けなどで、ビザ発給は止めていない。中国の対応は対等の原則から逸脱している。
水際対策の強化は、日韓だけでなく欧米でも実施しているのに、日韓のみを対象にすることにも理解に苦しむ。
国内向けに対日強硬姿勢を演出する狙いだとすれば不毛だ。
中国はビザ発給の再開時期を示しておらず、長期化すれば日中関係が一層悪化しかねない。
中国国内に日系企業の拠点は3万以上ある。中国への出張や異動が難しくなり、事業継続への支障も出てくる恐れがある。
旅行会社では、ゼロコロナ政策が終わり、将来的なツアーの本格化を見込んでいたが、その機運にも水を差す形になった。
日本は、中国に一日も早く撤回させるために、粘り強く説得を重ねてもらいたい。
