なぜ教団への恨みが元首相の襲撃につながったのか。教団と家族との関係、本人への影響も丁寧に解明していく必要がある。
事件は、宗教2世の人権侵害など深刻な問題を突き付けた。犯行に至った心の闇に迫り、真相を明らかにしなければならない。
安倍晋三元首相銃撃事件で奈良地検は13日、殺人などの罪で山上徹也容疑者を起訴した。
戦後で首相経験者が殺害された例はなく、事件は社会に大きな衝撃を与えた。
捜査は容疑者の起訴で大きな節目を迎えた。裁判は裁判員裁判で審理される見通しだ。
安倍氏は昨年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で参院選の演説中に銃撃され死亡した。山上被告はその場で逮捕された。
被告は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に恨みを抱き、事件を起こしたとされる。
しかし、銃撃に至った詳細な動機については明らかになっていない部分も多い。裁判では被告本人の証言を丁寧に引き出し、真相究明につなげてほしい。
捜査関係者などによると、被告の母親は1991年ごろに教団に入信し総額約1億円を献金した。
被告は「多額の寄付で家庭が崩壊した。(教団を韓国から)招き入れたのが岸信介元首相。だから(孫の)安倍氏を殺した」と供述している。
安倍氏は旧統一教会の友好団体が開いた国際イベントにビデオメッセージを寄せており、被告は安倍氏を「現実世界で最も影響力を持つ統一教会シンパの一人」と捉えていた。
供述などからうかがえるのは、あまりに飛躍した論理だ。インターネット上では、被告の生い立ちに同情し刑の減軽を求める署名活動や、英雄視する投稿もあるが、凶行自体は決して許されない。
一方、安倍氏と教団との関係を巡っては、事件に大きく影響したとみられるにもかかわらず、実態は解明されていない。
事件後、自民党国会議員ら政治家が教団側から選挙応援を受けていた事実なども明らかになった。
教団側は政治家との関係について納得のいく説明をしていない。事件の全容を解明するためにも包み隠さず明らかにするべきだ。政治家にも説明責任が求められる。
脅しや体罰で宗教活動を強制されたり、親の高額寄付で生活困難になったりした宗教2世の実態も表面化し大きな問題となった。
教団は献金の方法などを改革するとしたものの、被害者側には懐疑的な見方が強い。
文化庁は、教団に対する解散命令の請求を視野に宗教法人法に基づく質問権を行使しているが、結論が出るのはまだ先だ。
事件が投げ掛けた問題の多くは残されている。こうした状況を重く受け止め、裁判を注視したい。
