中国やロシアを念頭に置いた日米の連携が強まり、強権国家への対抗姿勢が一段と鮮明になった。

 だが日米同盟の深化が、国際社会の対立をあおることになってはならない。両首脳は軍事力に依存するのではなく、対話による外交努力を優先してもらいたい。

 岸田文雄首相とバイデン米大統領がホワイトハウスで会談した。

 首相は日本の防衛力強化について伝達し、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)などの開発と運用での連携強化で一致した。

 日米同盟は歴史的転換への岐路にあると言える。

 会談で安全保障分野に重きが置かれたのは、民主主義国を中心とした国際秩序が、中国やロシアなど専制主義的な国に脅かされていることへの危機感がある。

 共同声明は、力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対するとともに、中国による国際秩序への挑戦についても非難した。

 ロシアのウクライナ侵攻や、台湾の武力統一を排除しない中国の動向を踏まえ、毅然(きぜん)と主張するのは当然の姿勢だ。

 ただ会談が、日本の防衛政策の転換による抑止力強化、とりわけ反撃能力の保有を誇示する場となったことには懸念がある。

 国際社会に、日本の軍拡化と日米の軍事的な一体化をアピールするばかりで、国際社会の融和を図る意気込みは見えなかった。

 首相は反撃能力に用いる米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入を米側に伝え、バイデン氏は防衛費増額を歓迎した。

 日本国内で防衛力強化や財源を巡る議論が不足し、拙速な政策転換と指摘される中で、なし崩し的に進むことには疑問が残る。

 反撃能力の運用では、相手国内のミサイル基地など軍事目標を探知する衛星情報が欠かせず、情報収集や標的設定での連携が柱になる。自衛隊による能力行使が、米軍の情報や判断に大きく影響される可能性が高い。

 反撃能力の保有には、中国や北朝鮮が警戒を強めている。核・ミサイル戦力を増強する両国を、さらなる軍拡に走らせる事態は避けねばならない。

 共同声明は、日米を「民主主義的な二大経済大国」とし、経済秩序も両国が支えると強調した。半導体を含む技術の保護、宇宙や原子力エネルギーの分野で両国の優位性を確保すると明記した。

 経済安保も含め国際社会で主導権を保とうとする姿勢が鮮明だ。

 ただこれには米中の覇権争いが激化する懸念がある。中国と経済的なつながりが強い日本が全面的に対峙(たいじ)するのは得策ではない。

 日米両首脳は、国際社会が安定し、協調していくために連携し、力を発揮する必要がある。外交を主軸に、対話による平和構築の戦略を改めて求めたい。