認知症で最も多いアルツハイマー病の新薬が米国で承認された。根本的な治療薬として患者や家族の期待に沿うことはできるか。

 日本での実用化には課題が多い。製薬会社や関係機関には有効性の確認を急いでほしい。

 米食品医薬品局(FDA)は、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」を承認した。

 発症への関与が疑われる脳内のタンパク質「アミロイドベータ」を除去する機能が確認されたのを受け、新薬を早く市場に出すための迅速承認制度を適用した。

 製薬会社側は本承認を申請し、欧州医薬品庁(EMA)にも提出した。日本では3月末までに申請、年内の承認を目指す。

 両社は2021年にも似た仕組みの薬「アデュカヌマブ」を開発し、FDAに承認された。

 症状進行を抑える初の治療薬として脚光を浴びたが、日本では有効性の判断が困難だとして承認が先送りされた経緯がある。

 レカネマブ承認について、認知症の人と家族の会は「希望ある未来の幕開けとなる朗報」とのコメントを発表した。

 うつ状態や、記憶力低下による物忘れ、道迷いなどに苦しむ当事者は今度こそという思いだろう。国内承認の行方を注視したい。

 ただし課題が山積し、手放しで喜べないことも留意すべきだ。

 発症早期の患者が対象で、臨床試験では効果が「控えめ」と報告された。日常で利益を実感できるほどではないとの見方もある。

 対象患者の識別には診断技術の向上が欠かせず、脳の陽電子放射断層撮影(PET)など大がかりな医療装置が必要だ。症状が進んだ患者は対象外とみられる。

 副作用とみられる小さな脳出血や一時的な脳浮腫が生じる場合があり、長期投与のリスクを検証する必要がある。体質や併用薬なども考慮しなくてはならない。

 米国での標準的な価格は年2万6500ドル(約350万円)と高額で、費用対効果を疑問視する声は多い。普及の妨げになるのではないかとの懸念も残る。

 日本老年精神医学会など関連6学会は昨年、新薬普及を見据えて検査や治療が高額になると指摘、保険適用などの医療体制整備が急務だとする提言を共同発表した。

 国内の患者は数百万人とされ、保険適用には医療財政を圧迫する恐れがあるが、新薬が有効なら介護費用の削減などにもつながり、社会に還元できるだろう。

 政府の認知症対策の大綱は、当事者が暮らしやすい社会を目指す「共生」と、発症や進行を遅らせる「予防」に重点を置く。

 認知症は高齢者の5人に1人、誰もがなり得る病気だ。医療に限らず、見守りや居場所づくりなど地域全体で支える態勢を整え、安心して暮らせる社会を築きたい。