日米同盟は抑止力強化を前面に打ち出し、新たな局面に入った。ただ、両国の協議は国民を置き去りに進められ、国民の安全を守る目的にかなうかは見通せない。

 日米両政府は、首脳会談や外務・防衛担当閣僚の安全保障協議委員会(2プラス2)で、新たな安全保障の方針を確認した。

 軍備拡張に突き進み、覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、「戦略的競争での勝利」を同盟の目標と位置付けた。

 他国領域のミサイル基地などを破壊する日本の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を巡る連携に加え、沖縄県・尖閣諸島を含む南西諸島の防衛強化に乗り出し、懸念される中国の台湾侵攻に備える。

 米軍は、沖縄県に駐留する海兵隊を2025年までに、即応性のある「海兵沿岸連隊(MLR)」に改編する方針だ。日米で施設の共同使用などを拡大する。

 日本は沖縄の防衛、警備を担当する陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げし、ミサイル部隊の配備や弾薬の備蓄を増強する。日米共同で対処力を強化する狙いがある。

 しかし、南西諸島を防衛拠点として整備すれば、中国の攻撃標的になる可能性も高まり、軍事的なリスクは増すだろう。

 バイデン米大統領は首脳会談で、米国が日本を守る義務を負うことを定めた日米安保条約第5条に基づき、核を含むあらゆる能力を用いた対日防衛への揺るぎない責務と、尖閣諸島の同条適用を改めて表明した。

 会談後の記者会見で、岸田文雄首相は「バイデン氏から全面的な支持が表明された」と誇示してみせた。明確な支援を取り付け、首相は満足したかもしれない。

 だが、国民の安全を守るという本来の目的に資するかどうか。

 地元と協議する過程もなく、沖縄県の住民が「最優先すべき住民保護が置き去りにされ、政府自らリスクに飛び込んでいる」と懸念するのは当然の反応だ。

 会談や共同声明では、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設など、沖縄の重い基地負担に対する言及はなかった。

 首相は対米追従が目立ち、国民の不安に真摯(しんし)に向き合う姿勢を欠いていないか。

 米国は対日防衛義務の対象を宇宙にも広げる。日本は航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に改め、宇宙政策に力を入れるが、唐突だ。

 宇宙という目に見えないところで戦端が開かれ、中国やロシアと米国の有事に日本が巻き込まれることが考えられる。

 首相は23日召集の通常国会で、野党との論戦を通じ国民への説明を徹底するとしている。

 米国との約束を丁寧な口調で説明するのだろう。それでも国民への説明を後に回し、軽んじたことは変わらない。通常国会では首相の政治姿勢も追及されるべきだ。