海の安全確保を担う船が理解しがたい事故を起こした。県民、国民の信頼を損ねる事態であり、再発防止に向け原因を徹底究明しなければならない。
柏崎市の椎谷鼻灯台沖をパトロールしていた新潟海上保安部の巡視船「えちご」が浅瀬の岩場に乗り上げ、座礁した。乗組員33人にけがはなかったが、船は自力で航行できなくなった。
えちごの乗組員が椎谷鼻灯台が消えているのを発見し、確認のために近づいていたところだった。当時の天候は雨で、風速は約11メートルとやや強かった。
事故原因について新潟海保は、安全確認不足など人為的なミスの可能性があるとしている。
第9管区海上保安本部は業務上過失往来危険の疑いを視野に捜査をしている。
新潟海保をはじめ、9管や海上保安庁は今回のトラブルを深刻に受け止める必要がある。
海難防止や救助活動を担う船が、人為的ミスで座礁事故を起こすことなどあってはならない。
えちごは全長約105メートルで、新潟海保の巡視船で最も大きい。専門家によると、巡視船は周辺の水深や船の位置関係が常時把握できる航海計器を備えている。
えちごの喫水(船底から水面までの垂直距離)が約5メートルなのに対し、現場は潜水調査でほぼ同じ水深だったことが分かった。地元漁業者によると、付近は岩礁地帯で漁船も近づかない場所だという。
巡視船など大型の船が浅瀬に近づく際は進路の水深や自船の位置、気象条件などを確認し、慎重に航行することが欠かせない。
いずれも基本的な注意事項であるはずだ。一連の行程の中で確認ミスや操船ミスがあったのかなど、さまざまな角度から原因を洗い出さなければならない。
今月10日には海上自衛隊の護衛艦が瀬戸内海で浅瀬に乗り上げ、自力航行不能となる事故が起きたばかりだった。
海自によると、機器の故障は確認されておらず、「運航面」に原因があった可能性が高い。政府が防衛力の抜本的強化を掲げている中での失態だ。
新潟海保は「事故が起きるたびに情報共有し、同様の事故を起こさないようにしている」として普段から注意喚起してきたというが、組織に浸透していたのか。
えちごは日本海の好漁場「大和堆(やまとたい)」の警備も担っている。一帯は北朝鮮や中国などの漁船による違法操業が絶えない。
事故の影響で海上警備や救助活動などに支障が生じてはならない。他の海保や水産庁といった関係機関との連携を一層密にして対応に当たってほしい。
海保は、海と国民の安全を守る重要な役割を果たすことが求められている。責任の重さを改めて胸に刻んでもらいたい。
