「信頼回復を最優先に」との言葉が空々しく聞こえる。ずさんな対応を何度繰り返しているのか。

 安全確認に他の資料を流用すれば審査は成り立たない。どれだけ安全に関する手続きを軽視したら気が済むのか。

 東京電力は信頼回復が容易でないと自覚し、猛省すべきだ。

 東電は19日、原子力規制委員会に対し、運転開始30年を前にした審査を受けている柏崎刈羽原発3号機の審査書類に、149カ所の誤りがあったと明らかにした。

 うち131カ所は、既に審査を終えた2号機の審査書類の記述を流用していた。書類作成を委託されたグループ企業の東電設計が流用し、東電も同意していた。

 長期運転の安全性を審査する重要書類が虚偽だったことになる。しかも東電自体が認めた流用であり、原子力事業者としての適格性を疑わざるを得ない。

 3号機は再稼働に向けた審査が未申請だ。だが運転開始から30年となる8月までに、設備の管理状況を確認する必要があった。

 問題があったのは、経年劣化の影響を調べる「高経年化技術評価書」の記述だ。3号機の資料が見つからず、メーカーや型式が同じ2号機のものを使ったという。

 冷却水ポンプの部品材質が実際と違ったり、電源設備で使っていない部位を記入したりしていた。確認せずに丸ごと転記したとしか思えない誤りだ。

 東電は陳謝して「担当者の経験が浅かった」と説明、「安全性に影響がないことは確認している」とするが、それでは済まされない。

 規制委側が「書類の信頼性に関わる話で、重い問題と受け止めてほしい」と東電側に再発防止を求めたのは当然だ。

 政府は昨年末、60年を超す原発の運転を認める方針を決めた。規制委は今後、劣化管理の対応など新たな規制基準をつくる。

 放射線を長年浴びることで原子炉はもろくなり、コンクリートやケーブルは劣化する。経年劣化の評価はそれだけ重要で、安全管理上厳しく問われる必要がある。

 柏崎刈羽原発では核物質防護体制の不備などの問題が相次いで発生している。花角英世知事は17日、新年のあいさつで訪れた東電の小林喜光会長らに「今のままでは信頼を失っていると言わざるを得ない」と苦言を呈した。

 取材に対しては「原発事業を的確に遂行する技術的能力がないとしか思えない」とも述べた。

 東電は知事の言葉を県民の総意と捉えてもらいたい。不祥事のたびに「企業風土を変える」と言うが、行動と実績で変わったことを示す以外に道はない。

 政府は夏以降の6、7号機の再稼働を目指している。しかし、信頼回復の道筋を改めて示さなければ、再稼働問題の議論などできないことは言うまでもない。