政策転換が正しいかどうか、与野党は国民が納得のいく議論を尽くさねばならない。
通常国会が23日開会した。岸田文雄首相は施政方針演説で「歴史の分岐点に立っている」としてロシアのウクライナ侵攻や気候変動問題などを挙げ、「こうした現実を前に新たな方向に足を踏み出さなければならない」と強調した。
そのために防衛力の抜本的強化や原発の運転期間延長、異次元の少子化対策の実現に取り組む強い決意を表明した。
防衛力の抜本的強化では、5年間で43兆円の防衛予算を確保し、相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力(敵基地攻撃能力)保有などを改めて表明した。
日本の安全保障政策の大転換だが、「憲法、国際法の範囲内で行う」とし、非核三原則や専守防衛を堅持するとも述べた。
防衛費増額に伴う財源については「増税」の言葉を使わず、「今を生きるわれわれが、将来世代への責任として対応する」との方針を重ねて示した。
議論の前提として明言する必要があっただろう。
共同通信社が先月実施した世論調査では、増税を巡る首相の説明に「不十分だ」との回答は87%に上った。しかし演説は国民の不満に応えなかった。
少子化対策では、昨年の出生数が80万人を割る見込みの中で、対策の必要性を強調したものの、6月の骨太方針策定までに予算倍増に向けた大枠を提示するとしただけで、具体的内容や財源については語らなかった。
自民党内から、消費税増税への言及もある中で議論を深めるには、最初にたたき台を示す必要があるのではないのか。
首相は「国会で正々堂々議論し、実行に移す」と意気込むが、聞こえの悪い話を避けていては、首相の言う「信頼と共感の政治」を国民が実感できるとは思えない。
原発の60年超の運転期間延長など原発の最大限活用方針は、2011年の東京電力福島第1原発事故以来の大転換となる。老朽化した原子炉を動かすことへの不安は根強く、疑問もある。
物価高も深刻だ。特に有期雇用社員や子育て世帯らへの打撃は大きい。感染症法上の5類への引き下げが示された新型コロナウイルス対策も国民の関心は高い。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治家の関係は究明が不十分だ。引き続き説明が必要だ。
歴史的な転換点にある重要な国会だけに、野党第1党の立憲民主党をはじめ各党の力も試される。
今国会ではほとんどの野党が、防衛増税に反対する立場で連携する方針だ。エネルギー政策や憲法などスタンスの違う問題もある中で、共闘態勢を維持できるか。
今国会こそ野党の存在意義をしっかりと示さなくてはならない。
