答弁を丹念に読み上げたところで、質疑にかみ合い、理解が深まる内容でなくては、丁寧に説明したことにはならない。

 首相は「正々堂々と議論をする」としたが、その中身を国民の胸に届けるには表面的ではない踏み込んだ議論が不可欠なのに、それが見られなかった。

 岸田文雄首相の施政方針演説に対する衆参両院の代表質問が終わった。歴史的な転換点となる防衛力強化やエネルギー政策、岸田政権が最重要課題に位置付ける少子化対策が議論の中心だった。

 防衛力強化の柱となる反撃能力(敵基地攻撃能力)が専守防衛に逸脱するとの懸念に対し、首相は「ミサイルなどによる攻撃を防ぐのにやむを得ない、必要最小限度の防衛措置として行使する」とし、逸脱しないと重ねて述べた。

 想定されるケースは語られず、説明は従来の域を出なかった。

 増額する防衛費の財源についても「足りない部分は税制措置での協力をお願いしたい」とするにとどまり、施政方針演説に引き続いて答弁で「増税」の言葉を使うことを避けた。

 税制措置では「家計や中小企業に十分な配慮をする」としたが、具体的ではなかった。

 気になったのは、首相が防衛力強化やエネルギー政策の転換方針について、「国会での議論などを通じ、国民に丁寧に説明する」と繰り返していたことだ。

 政府は、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定や、原発の運転期間延長や新増設といった国の根幹に関わる方針を、国会で詳しく説明することなく転換した。

 首相は、「慎重の上にも慎重を期して検討し、それに基づいて決断した政府の方針や、予算案・法律案を、国会の場で議論し、実行に移す」と述べたが、国会は、政府が一方的に決めた方針を事後に議論するだけの場ではない。

 首相の政治姿勢に対し、代表質問で野党から「閣議決定を先行させ、国会での議論をないがしろにしている」「政府と与党で検討したから問題ないというのは、議会制民主主義を無視した暴論だ」などと批判が出たのは当然だ。

 一方、政府が「待ったなしの先送りの許されない課題」とする少子化対策は、6月の「骨太方針」までに予算倍増に向けた大枠を示すとして詳細は提示せず、具体策の検討もこれからだとした。

 驚いたのは、検討に当たって首相が自ら、子ども・子育ての当事者である親をはじめ、若い世代の意見を徹底的に聞くことから始めると、施政方針演説で述べたことだ。あまりに悠長で「聞く力」のパフォーマンスにしか映らない。

 国会論戦は、内閣の一方的な説明の場ではない。国民第一の政策を実現するには、与野党が緊張感を持って論戦を交わし、政策に反映させていくことが欠かせない。