子育ての実態をきちんと理解した上で政策を講じようとしているのか、疑問を感じさせる。首相は出生率を反転させるというのであれば、もっと当事者に寄り添い、理解を深めなくてはならない。

 本格論戦が始まった国会で、岸田文雄首相が最重要課題に位置付ける子ども・子育て政策を巡り、釈明や曖昧な答弁を重ねている。

 参院代表質問では、自民党議員が育児休業中にスキルを身につけるための学び直し「リスキリング」に取り組む企業への支援を提案したのを受け、首相は「主体的に学び直しに取り組む方々を後押しする」と賛意を示した。

 これに対し、インターネット上で「赤ちゃんを育てるのは、普通の仕事よりはるかに大変。子育てをしてこなかった政治家が言いそうなことだ」といった指摘や批判が相次いだ。

 多くの親は育休中に終日、子育てに追われ、孤軍奮闘している。「学び直しの時間などない」と反発する声が上がるのは当然だ。

 衆院予算委員会で答弁についてただされ、首相は「子育てが経済的、時間的、精神的に大変だというのは目の当たりにしたし、経験した」と言及し、リスキリングは「本人が希望した場合」が前提だと釈明した。

 育休中は体力的にも大変で、子育てで体調を崩す親への支援強化も欠かせない。

 育休を取得しやすくするには、政府はリスキリングと結び付けるのではなく、職場復帰の円滑化や育児と仕事の両立支援に力を入れていくべきだ。

 国会論戦では、自民の茂木敏充幹事長が衆院代表質問で、児童手当の所得制限撤廃を言及したことにも関心が集まっている。

 首相は茂木氏の発言を「一つの意見だ」としつつ、31日の予算委では児童手当の拡充に向けた制度の具体化を進める考えを示した。

 所得制限の撤廃は、子育てを社会全体というより、家庭を中心に担うものとして位置付けてきた自民の方針転換を意味する。

 2010年に民主党政権が所得制限のない子ども手当を創設した際には、自民は所得制限を主張して民主政権を非難し、法案採決の際には「愚か者めが」といったやじまで飛んだ。

 首相は予算委でこの点を立憲民主党にただされ「反省すべきは反省する」とした上で、「10年たち、少子化を巡る社会経済の環境が変化している」と強調した。

 しかし政府は昨年10月、夫婦どちらかが年収1200万円以上の場合は、児童手当の支給対象外としたばかりだ。所得制限撤廃は朝令暮改にほかならない。

 統一地方選を控え、児童手当拡充を政権浮揚の金看板としたい政権の思惑が透ける。

 方針を転換するには首相の納得のいく説明が不可欠だ。