光熱費が膨らめば家計への大きな打撃となる。値上げの幅は適切か、経営効率化の取り組みは十分なのか、申請を受けた国はしっかり審査しなければならない。

 値上げには事業者への信頼が不可欠なのに、業界では不正が相次いでいる。不信感の払拭(ふっしょく)に納得のいく説明を求めたい。

 大手電力10社のうち7社が電気料金の値上げを申請した。多くの家庭が契約する規制料金が対象で3~4割の値上げを見込む。

 東北電力は平均約33%の値上げを申請、4月1日の引き上げを目指す。標準的な家庭で月2717円の負担増となる。

 規制料金の値上げは、東日本大震災後の業績悪化を受けた2013年以来のことだ。

 ウクライナ危機や円安の進行で火力発電の燃料となる石炭や液化天然ガス(LNG)の価格が高騰したことによる。

 高騰分を料金に転嫁できる「燃料費調整制度」は昨年6月分から上限に達し、経営を圧迫していた。4~12月期連結決算は過去最大の赤字となった。

 他の6社も事情は同じだ。燃料価格の高騰で一定程度の値上げが避けられないことは分かる。

 消費者に負担増を求める以上、事業者自身も身を切る覚悟が必要だろう。コスト削減に向けた企業努力が問われる。

 気がかりなのは、東京電力が柏崎刈羽原発7号機を10月に、6号機を来年4月に再稼働する前提で値上げ幅を算定している点だ。

 原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受け、再稼働の議論すら始まっていない段階だ。前提が崩れれば、申請認可後のさらなる値上げも予想される。

 東電が柏崎市で開いた住民説明会では「地元に説明がないまま、原発を動かせば安くなると訴えている」との批判が噴出した。

 値上げと結びつければ世論を原発再稼働に誘導しかねず、大消費地と立地地域の分断を招きかねない。前のめりの姿勢が反発されるのも無理はない。

 指摘しておきたいのは、電力業界への信頼が揺らぐ中での値上げだということだ。

 東北電など大手6社は送配電の子会社の端末を使い、競合する新電力の顧客情報を不正に閲覧していた。新規顧客獲得の営業活動に悪用していた例もあった。

 電気事業法は、子会社が持つ新電力の顧客情報を親会社と共有することを禁じている。

 国が業務改善命令などの処分を検討するのは当然だ。事業者は原因を分析し、再発防止策を講じなくてはならない。

 不正閲覧とは別に関西電力など大手4社が絡むカルテル問題も浮上し、公益企業としての自覚と倫理観のなさが浮き彫りになった。

 信頼回復への道筋を示さないうちは大幅値上げを容認できない。