夏の参院選をにらみ、失点しないことを最優先するような答弁ばかりで議論が深まるはずもない。岸田文雄首相の姿勢は身勝手な国会軽視に見える。

 懸念するのは、今後の論戦が同様のペースで進むことだ。首相には国民の疑問に向き合う真摯(しんし)な答弁を求めたい。野党側も論戦の活性化に向け、戦略的に対峙(たいじ)してもらいたい。

 首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が終わった。目立ったのは、「守り」を重視する首相の態度だ。

 答弁ではこれまで施政方針演説や記者会見で述べてきた内容をなぞり、安全運転に徹した。

 立憲民主党の泉健太代表は、政府の新型コロナウイルス対応策に関してオミクロン株の強い感染力を前提にしていないと指摘。改善を求めた。

 さらに6月をめどに新型ウイルスの中長期的対応を策定するとした政府方針についても「遅すぎる」と批判した。

 首相はオミクロン株対応を見直す考えは示さず、6月という時期についても「これまでの対応を客観的に検証するために必要な期間」と反論した。

 自身の肝いりである「新しい資本主義」を巡っても「かすみに包まれたままだ。言葉遊びはもう結構」(馬場伸幸・日本維新の会共同代表)などと批判されたが、答弁は従来の域を出なかった。

 参院選を無事にしのぐことができれば、後は大きな国政選挙もしばらくなく、長期政権への展望が描ける。

 首相の安全運転にはこんな思惑があるとされる。だが、そのことが議論の硬直化を招いているようでもある。

 泉氏は、新しい資本主義への疑問を呈する中で「持続可能な日本を実現する三つの分配」を提案した。

 そのうちの一つ「地方への分配」に関連し、首相がデジタル田園都市国家構想で地方のデジタル化を進めるというなら、地方圏の人口増を掲げてはどうかと述べた。

 これに対し首相は、地方の人口減少などの課題についても解決していくなどと答弁したが、地方から見れば、もっと明快で詳しい見解を聞きたい思いに駆られた。

 守りを固め、保身優先の内向き答弁となっては、国民のためであるはずの議論が形骸化しかねない。首相は自らの責任を肝に銘じなければならない。

 6月までの長丁場となる通常国会は始まったばかりだ。今後は予算委員会の論戦などが控える。代表質問を踏まえてどう対応するか、野党側の戦略が問われよう。

 トップの泉氏が「提案型」を志向する立民は、泉体制で初めて臨んだ昨年12月の臨時国会では迫力を欠いた。

 今回の代表質問では提案と追及の両立へ幹部が役割分担したが、従来答弁を繰り返す首相を攻めあぐねた印象がある。

 野党各党は政権監視という役割をしっかり果たすためにも、それぞれ知恵を絞ってほしい。