個々の家族の暮らしに関わる重要な問題だ。長年積み残しにされてきた課題の解消に、腰を据えて取り組んでもらいたい。
パート労働者が就労時間を抑える一因とされる「年収の壁」について、岸田文雄首相が解消に向けて制度を見直す意向を示した。
希望に応じて収入を増やせるように、上限を気にせず働ける環境を整える。女性登用を拡大し、働き手の確保を急ぐ狙いもある。
現行制度は、配偶者の社会保険料を免除したり、配偶者を扶養している人の所得税負担を軽減したりする仕組みがある。しかし配偶者の年収が一定額を超えると適用されず、手取りや世帯収入が減るため、「壁」と意識されてきた。
例えば夫が会社員、妻がパートで働く場合、妻が勤める会社の規模によって、年収が106万円や130万円以上になると、妻にも社会保険料の負担が生じる。
年収103万円以上で妻に所得税負担が発生し、150万円を超えると夫が所得税の配偶者特別控除を満額受けられなくなる。
民間シンクタンクの調査で、夫がいてパートなどで働く女性の約6割が、勤務時間を調整していると答えたのはそのためだ。
壁がいくつも立ちはだかり、「なぜ働くほど損する人が出かねない仕組みなのか」と嘆く声が聞こえるのも無理はない。
岸田政権が重視する賃上げを巡っても矛盾が生じる。時給や賃金が上がれば、さらに労働時間を抑える必要があるからだ。
家庭の収入は増えず、企業は人手不足を解消できない。制度は現状に合っていない。
「年収の壁」問題は、政府が昨年6月に決めた女性活躍の重点方針にも盛り込まれた。現行の税制や社会保障制度が、女性が仕事を制限する原因になっているとし、制度を検討すると明記した。
重点方針では、問題の背景に、昭和に形作られた制度や、男女間の賃金格差を含む労働慣行、男性は外で働き女性は家を守るといった固定的な性別役割分担意識があると指摘された。
こうした家族観を当然とする人はなお多く、国会でも制度の見直しは容易ではないだろう。
2017年度に当時の安倍晋三首相が、就業調整を意識せずに働けるようにするとして、税制改正のテーマにした際も、専業主婦世帯の負担が増えるとして与党から慎重論が相次いだ。
パートで働く人の厚生年金加入を促せば、企業の保険料負担が増えるといった課題もある。
ただし、見直しが実現しなければ、女性の経済的自立や登用は進まない。世界でも著しく遅れていると指摘されている日本の男女格差の解消も図れない。
女性の視点を踏まえた抜本的な見直しが不可欠だ。将来を見据えた仕組みに変えねばならない。
