不当な差別感情を軽々しく口にする人権感覚は全く理解できない。発言した首相秘書官が更迭されたのは当たり前だ。
秘書官は「個人的意見」と弁明したが、LGBTなど性的少数者に対して差別的なムードが官邸内に広がっていると疑われても仕方あるまい。岸田文雄首相の人権意識が厳しく問われる。
経済産業省出身で首相秘書官を務めていた荒井勝喜(まさよし)氏が、性的少数者や同性婚を巡り差別発言をして更迭された。
オフレコを前提とした非公式取材で、首相が同性婚の法制化に関し否定的に答弁した真意について質問され、「秘書官室は全員反対だ」「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」などと発言した。
同性婚導入で「国を捨てる人、この国にいたくないと言って反対する人は結構いる」とも述べた。
後に公式に撤回し、謝罪したがそれで済む話ではない。
首相秘書官は内閣の政策立案や首相の対外発信を支える政権の要職だ。荒井氏は広報担当として官邸の情報発信や報道対応に当たり、首相のスピーチ作成も担っていたという。首相と意思が通じる存在だったと想像できる。
首相は更迭理由について、多様性を尊重し、包摂的な社会を実現していくとする「内閣の考え方に全くそぐわない」とした。
本当にそうだろうか。荒井氏の発言の土台には、違いを認めようとせず、差別を肯定するかのような首相の答弁がある。
1日の衆院予算委員会で首相は同性婚の法制化は「極めて慎重に検討すべき課題だ」とし、その理由を「家族観や価値観、社会が変わってしまう」と述べた。
首相が言う家族観や価値観は、婚姻は異性愛者同士で行うべきだという認識を指すのだろう。
答弁は、伝統的な家族観を守ろうとする意識がにじみ、結婚の自由を願う性的少数者の基本的人権を保障する姿勢が感じられない。
若い世代を中心に同性婚を容認する世論が高まり、社会が変わっていることへの理解も欠ける。
2021年3月には札幌地裁が同性婚を認めていない法規定を憲法違反と初判断し、政治の役割に期待が集まっている。
性的少数者がカップルであることを証明するパートナーシップ制度は新潟、長岡、三条の各市をはじめ全国で導入されつつある。
一方、国会では性的少数者への理解増進を図る超党派による法案が、自民党の保守派の抵抗を受けてたなざらしにされている。
日本は先進7カ国(G7)で唯一、性的少数者のための法的整備が進んでいない国だ。
乏しい人権意識を放置したまま5月のG7首脳会議(広島サミット)を迎えてはいけない。
政府は人権を尊重する国として恥じない一歩を踏み出すべきだ。
