聞くともなしに流していたテレビのニュースから「ねをあげました」という記者の声が聞こえてきた。音を上げた? 一般的なニュースではさほど使わない表現のような。「ね」は「値」だと気づくのにしばらく時間がかかった

▼株式市場について報じていた。「値が上がった」と言えば誤解もなさそうだが、かの業界では「値を…」という言い方の方が一般的なのだろう。いずれにせよ、株式市場にとって価格が上がるのは基本的に活況を意味する

▼しかし多くの人にとって、昨今の物価上昇には、弱音を吐く方の「音を上げた」と言いたくなるのではないか。帝国データバンクによると、今月は再び食品の値上げラッシュとなる。冷凍食品や水産練り製品など約5500品目の価格が上がる

▼ことし値上げしたか、値上げを予定する食品は約1万2千品目に及ぶ。原材料やエネルギーの価格が上昇した分をまだ十分に転嫁していない企業も多いという。夏ごろまで1カ月あたり2千~3千品目の値上げが続くらしい

▼ため息どころではない。「音を上げる」の「音」には「人の声」という意味がある。とりわけ、この場合は「泣き声」を指すようだ。悲鳴と言ってもいいか。あまりに苦しくて、どうしたらいいの-。悲痛な声がそこかしこから聞こえてくる

▼自助努力にも限界がある。政治をはじめ、この国の総合力が問われる。物価高騰をどう抑えるか。賃金アップをどう実現するか。お手上げとばかりに「音を上げて」などいられない。

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