上越市出身の画家、富岡惣一郎は昨年、生誕100年を迎えた。これを記念して南魚沼市のトミオカホワイト美術館は画集「白の軌跡」を制作した。約570点の所蔵品から山や川、海など代表的なモチーフを描いた100点を掲載している

▼富岡が亡くなり来年で30年となる。在りし日の姿を知らない人も増えてきた。作品とともに、人柄も知ってもらおうと、画集には家族や元学芸員が寄稿している

▼スキーで滑走しながら取材中、リフトの支柱に激突して1カ月入院したこと。高速道を走行中、気に入った風景を見つけ、運転手に車を止めるよう頼んだこと。ハラハラするような場面がつづられている

▼息子の秀さん(74)はアトリエに流れていた音楽を回想した。1950年代はシャンソンの名曲「パリの空の下」、多くの画家と同じく芸術の都にあこがれていたのだろうか。80年代は映画「南極物語」のサウンドトラックだった。雪と氷に覆われた、はるかな白い大陸に思いをはせていたのかもしれない

▼90年代はフランスの作曲家エリック・サティのピアノ曲「ジムノペディ」になった。余分なものを全て取り除いたと言われるサティの旋律は、無駄なものが一つもないと評される富岡さんの画風に通じる

▼3枚のCDを順に再生しながら、画集をめくった。身長160センチに満たない小柄な画家が、大きなキャンバスに向かい、一心に真珠のような白い絵の具を塗っている―。ドアの隙間からアトリエをのぞいたような気分になった。

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