またしてもスポーツの祭典で逮捕者が出た。大会運営を取り仕切る幹部が談合を差配し、公正な競争を妨害した疑いがある。

 世界最高水準の競技が繰り広げられた舞台裏を汚したとすれば、フェアプレー精神にもとる恥ずべき行為だ。不正のうみを出し切る徹底した捜査が求められる。

 東京五輪・パラリンピックのテスト大会を巡る入札談合事件で、東京地検特捜部は8日、独禁法違反(不当な取引制限)の疑いで、大会組織委員会の大会運営局元次長を逮捕した。

 他に、広告最大手電通のスポーツ部門元幹部と、イベント制作会社2社の役員2人も逮捕された。東京大会を巡る汚職、談合事件で電通本体から逮捕者が出たのは初めてとなる。

 4人の逮捕容疑は共謀し、2018年2~7月ごろ、他4社の担当者との間で、運営リハーサルに相当するテスト大会の計画立案業務などの契約で、受注予定企業を決めた疑いだ。

 電通を頂点とする広告業界が利益を分け合ったとみられる。捜査当局は全容を解明し、巨額マネーが動くスポーツイベントの実態を明らかにしてもらたい。

 電通元専務で組織委元理事らが逮捕、起訴された汚職事件に続く不祥事だ。日本オリンピック委員会をはじめ関係機関は深刻に受け止めねばならない。

 談合事件は、本大会運営業務など計400億円の随意契約分も容疑に含まれる。談合対象の入札契約より、その後の随意契約の方が巨額となる事件は異例だ。

 関係者によると、元次長は電通元幹部らとともに、競技ごとに企業を割り振った一覧表を使って受注調整を進めたとされる。

 計画立案業務の入札は競技会場1~2カ所ずつ26件実施され、電通や博報堂など9社と一つの共同事業体が落札した。26件のほぼ半数が1社しか応札しなかった。

 落札した企業はそのまま随意契約で本大会の運営まで受注した。

 元次長はマイナースポーツを含め全競技で担当企業を確保できるか懸念を抱いたという。組織委が運営を任せられる企業に当たりをつけるのは合理的で、不可欠だったとの声は根強くある。

 だが、競争原理が働かない随意契約だと価格が高止まりして、コスト増につながりかねない。談合を正当化することはできない。

 応札希望を伝えた社に対して、元次長が過去の実績を基に難色を伝えたこともあり、特捜部は競争を制限したとみている。

 組織委に多数の出向者を出した電通1強体制には、広告業界に「電通から仕事を回されたら、のまざるを得ない」との声がある。

 組織委には行政からの出向者が多く、入札制度に詳しい人もいたはずだ。当時の組織委のガバナンスも問われなければならない。