容疑者4人の日本移送が完了し、捜査は全容解明に向け一歩を踏み出した。警察当局はフィリピン側と連携して、入管施設を「隠れ家」とした犯罪の手口を明らかにしなければならない。
各地で相次ぐ広域強盗事件の指示役「ルフィ」とみられる男4人が9日までにフィリピンから強制送還され、特殊詐欺事件に絡む窃盗の疑いで逮捕された。
4人はフィリピンを拠点に仲間と共謀し、日本の高齢者らをだましてキャッシュカードを盗むなどした疑いがある。被害額は60億円を超えるという。
2021年夏以降に起きた強盗や窃盗の計五十数件も、手口や逮捕した実行役らの供述から4人との関連があるとみられる。この中には、1月に東京都狛江市で90歳の女性が殺された強盗殺人事件も含まれる。
多くの国民の財産を奪い、危害を加える卑劣な犯行だ。社会を不安に陥れた特殊詐欺と強盗の双方での徹底究明が待たれる。
強制送還を巡っては、日本側は21年2月までに4人の逮捕状を取り、身柄の引き渡しをフィリピン側に求めていた。ただ、現地で刑事事件に問われていたことが障害になっていた。
状況が動いた背景には、マルコス大統領の日本公式訪問が8日に控えていたことがある。フィリピン側は大統領訪問時に送還問題が焦点となるのを避けるため、解決を急いだ。
収容者の中には送還を逃れるため、現地で事件をでっち上げる者もいるといい、今回もそのケースが疑われる。
もっと早く送還されていれば、凶悪犯罪を防げた可能性がある。フィリピン当局には経緯の検証と適切な対応を望む。
今回の広域強盗事件で浮き彫りになったのは、海外に拠点を移した犯罪グループの脅威だ。
19年にはタイで特殊詐欺に関与したとみられる日本人グループが摘発された。今回4人が率いていたとされる日本人36人も同年、フィリピンで拘束された。
捜査関係者によると、外国では携帯電話の通信記録が取れず、捜査の手が届きにくい状況が海外移転を助長しているという。
フィリピンの入管施設は汚職がはびこり、各国の犯罪者は都合よく逃げ込んできた。
4人はそこでスマートフォンなどを使い、匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」で多くの実行役を募っていたとみられる。
拘束中も口裏合わせができる環境にあったため、誰が指示したか立証するのが困難との見方がある。警察はスマホの解析も含め徹底的に捜査を進めてほしい。
海外を拠点にした犯罪が再び起きることのないよう、日本は今回の事件を踏まえた対策を各国と連携して講じていくべきだ。
