大国である米国の安定は、国際情勢に影響する。大統領は国内を結束させ、安定を図らねばならないが、党派の分断は依然根深く、修復は見通せない。

 結束に向けて、米国と並ぶ大国の中国を対抗軸に位置付けるのは近道かもしれないが、それでは危うい。敵視が過ぎれば、国際的な緊張が高まりかねない。

 バイデン米大統領が、上下両院合同会議で一般教書演説に臨み、今後1年間の内政、外交政策についての指針を示した。

 就任2年の実績を前面に出し、内政では1200万人の雇用創出や、新型コロナウイルス禍からの経済の改善をアピールした。

 2024年大統領選への再選出馬に向けた布石を打ち、「仕事をやり遂げよう」と述べて党派を超えた協力を求めた。

 しかし、昨年11月の中間選挙で野党共和党が下院の多数派を奪還し、政権とねじれが生じた現状では、先行きは厳しい。

 演説中には共和党議員から大声でやじが飛び、激しいブーイングが起きた。バイデン氏もこれに反撃し、米紙は「大統領による議会演説としてはおそらく前代未聞の応酬」と報じた。分断を象徴する場面となった。

 一方、外交面では演説の力点を対中姿勢に置き、「中国との競争に打ち勝つには結束しなければならない」と呼びかけた。

 分断が言われても、「反中国」では政府も議会もおおむね一致することが根底にあるだろう。

 中国の習近平国家主席に「望んでいるのは衝突ではなく競争だ」と明確に伝えたとし、「米国の国益と世界のためになるなら中国と協力もする」と語った。

 その半面、米国上空に侵入した中国の偵察気球を今月、撃墜したことを念頭に、「中国が米国の主権を脅かせば、米国を守るために行動する。われわれは行動した」とも主張した。

 中国との関係安定化を見据えつつ、国内からの弱腰批判をかわそうと腐心したことはうかがえる。

 懸念するのは、下院での共和党の発言力に引っ張られ、政権の対中強硬姿勢が強まることだ。

 バイデン氏が打ち出した先端半導体の規制強化や、米国のサプライチェーン(供給網)を必ず米国で始まるようにするといった方針は、中国にとって打撃となる。

 両大国の緊張が軍事面、経済面で激化すれば、東アジアの安定を損ないかねず、日本は米国の対中姿勢と無関係ではいられない。

 ロシアのウクライナ侵攻を巡っては米国が国際社会をけん引し、善戦を支えていると誇ったが、莫大(ばくだい)な支援予算に見直しを求める動きも共和党の一部にある。

 米国の支援姿勢はウクライナの戦況を左右する。バイデン氏には「自国第一」ではない冷静な判断が求められる。