北米で所属不明の飛行物体が撃墜される事態が相次いでいる。問題の発端は、中国の偵察用とみられる気球の飛行だった。
許可なく他国の領空に侵入するのは国際法違反であり、国同士の新たな対立の火種になりかねない。米国は詳しく調査するとともに、中国と対話を通して状況を打開していくことが求められる。
米国防省は12日、中西部ミシガン州の五大湖上空で、米軍戦闘機が飛行物体を撃墜したと発表した。4日に中国の気球を撃ち落として以降、10日からはカナダ北部を含め3日連続で撃墜した。
米国がレーダーの精度を上げて相次ぐ発見につながっていることも要因だが、異例の事態だ。
事前通報のない飛行物体は、民間航空機に危害を及ぼす恐れがある。今後も警戒が欠かせない。
4日の気球について、中国政府は中国の民間の気象研究用と主張しているが、説得力に欠ける。
気球には複数のアンテナなど通信傍受機器が搭載されていたことが分かり、軍事施設などの偵察目的との見方が強まっている。
他の飛行物体を飛ばした国や飛行目的についても解明が待たれる。米国などは残骸の回収を急ぎ、分析を進めてもらいたい。
一方、中国外務省は13日、米国の気球が昨年以降、10回超にわたり許可なく中国上空に飛来したと発表した。12日には、山東半島沖で正体不明の物体が飛行し、中国当局が撃墜の準備をしていると一部メディアが報じた。
正しい情報なのか。中国政府には、きちんと根拠を示した上での説明を求めたい。
中国の習近平指導部は、宇宙や海洋、サイバーなどの分野で民間の先端技術を軍事部門に生かす「軍民融合」を国家戦略として推進してきた。これまでに五大陸の40カ国超の上空に偵察気球を飛ばしてきたとの見方がある。
懸念されるのは、対話に向かいかけた米中間の対立がさらに深まる恐れがあることだ。
バイデン米政権は気球の飛来を受けて、ブリンケン国務長官の訪中を延期した。
中国政府も対抗措置をちらつかせて反発している。
双方とも国内の保守派などから出ている弱腰批判を意識し、強硬姿勢に傾かざるを得なくなっている状況もあるのだろう。
この問題で対話が途切れ、世界経済への悪影響や不慮の軍事的衝突を引き起こしてはならない。
飛行物体は日本でも過去に目撃されており、今回の問題を踏まえ政府に危機感が広がっている。軍用か民間かの見極めが難しく、高高度を飛行中に自衛隊の能力で撃ち落とすのは困難とみられる。
まずは米国と情報をしっかり共有し、飛行物体に不安を抱いている各国と緊密に連携していくことに力を注ぎたい。
