卒業ソングといえばロックバンド・レミオロメンの「3月9日」を挙げる人も多いだろう。もともとはバンドメンバーの友人の結婚に際し作られた。ファンにはよく知られたエピソードだ
▼〈瞳を閉じればあなたが/まぶたのうらにいることで/どれほど強くなれたでしょう〉。大切な人のことを思う歌詞は、卒業という晴れやかで少し切ない節目に寄り添う言葉のようでもある
▼その顔や表情を思い浮かべると力が湧いてくる。そういう大切な人がいれば心強い。ただ、ことしの卒業生が思い浮かべるのはマスクをした顔ばかりかもしれない。クラスメートの中には、マスクに隠された素顔をほとんど見たことがない人もいるのでは
▼この春の卒業式は、素顔で参列する人が多くなるのだろうか。文部科学省は全国の教育委員会に、卒業式では児童生徒らはマスクなしを基本とするという通知を出した。感染禍の動向次第ではあるものの、門出の場で大切な人の表情を目にすることが可能になる
▼もちろん、マスクを外さない人もいるだろう。本人や身近な人の重症化リスクが高いケースのほか、素顔を見られることに心理的な負担を感じる人もいる。外すかどうかの判断を強要されることがあってはならない
▼感染禍が始まって以降、社会の寛容さがいっそう失われた感がある。卒業式のように感染リスクが低いと考えられる場所では、マスク着用について個人が適切に判断できる社会を再構築したい。この春がその起点にならないものか。