新型コロナウイルス対策で推奨されてきたマスク着用が、個人の判断に委ねられることになった。これに対し、学校や事業所、公共の場などでどう行動したらいいのか戸惑いの声が出ている。

 現場が混乱しないか心配だ。マスクを外すリスクも考慮した対応が各自に求められる。

 政府は、マスクの着用を3月13日から個人の判断に委ねるとした新たな指針をまとめた。日常生活に浸透してきた基本的な感染対策が大幅に緩和される。

 マスクの着用緩和を巡っては、間近に迫る学校の卒業式での対応が大きな課題だった。

 政府は、卒業式は「児童生徒らはマスクを着用せずに出席することを基本とする」として、都道府県教育委員会などに通知した。

 ただし、校歌などの斉唱や複数の児童生徒によるメッセージの呼びかけの際は着用する。マスクを外すことは強制せず、着用の有無によって差別が生じないように指導するとした。

 中学や高校の3年生は入学当初からマスクを着用し、互いの顔を見ることが少なかった。卒業式は素顔で迎えさせてあげたいという親や学校は少なくない。

 一方で、感染による重症化リスクが高い高齢者らがいる家族などにはマスクを外すことに慎重な意見がある。受験を控え、心配な思いもある。マスクに慣れて素顔を出すのを嫌がる子どももいる。

 各学校は、児童生徒や保護者らの理解を得ながら、状況に応じた柔軟な姿勢で臨んでもらいたい。

 文部科学省や各教委は、学校が混乱しないよう適切に助言、指導してほしい。

 新指針は、医療機関や混雑した電車など、着用が推奨される場面も示した。一方、全員が着席可能な新幹線や高速バスでは外すことを容認した。

 どんな場面なら外せるか、多くの人が戸惑う状況が予想される。

 ウイルスの根絶が見通せず、新たな変異株の脅威もある中で、警戒を怠ってはならない。政府は新指針を国民に丁寧に説明していく責任がある。

 新指針の背景には、5月に先進7カ国(G7)の首脳会議が広島で開かれることがある。欧米では「脱マスク」が先行しており、政府内には早く国際標準に合わせたいとの声が強まっていた。

 5月8日には感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同等の5類に移行する。

 岸田文雄首相は専門家の意見を踏まえて進めてきたと強調するが、専門家からはウイルス対策の緩和を急ぐ政府の姿勢に異論も出ている。マスクを外すのであれば、それ以外の対策をしっかり続けるべきだとの指摘もある。

 政府は緩和に前のめりになることなく、感染状況を見極めながら対応を講じていくべきだ。