年度末の足音が聞こえるようになってきた。もう少しすれば進学や就職をはじめ旅立ちの時を迎える人も多いだろう。そんな節目には鉄道がよく似合う。どこまでも続くレールは人生に例えられる

▼漫画家、松本零士さんの「銀河鉄道999」は鉄道に乗って宇宙を旅する少年の成長を描いた。行く先々の星で多くの人と出会い、事件に遭遇した少年は人生の喜びや悲しみを知ることになる

▼長い旅路の果てに終着駅に着いた少年はこんな言葉を口にした。「ひとつだけはわかったよ。限りある命だから人は一生という時間の中で、精いっぱいがんばる…短い時間の中でなにかをやりとげようとする…」

▼だからこそ互いに思いやりや優しさが生まれるのだと少年はつぶやいた。作者である松本さんの実感が詰まったせりふではなかったか。自身も18歳の時、漫画家になるため九州の小倉から夜行列車に乗り、東京を目指した

▼興奮と緊張で眠れないでいると車外の闇夜が、星が流れる宇宙に変わっていくように感じたという。自分の乗った列車が星雲の中を走っているイメージが湧き、この時の思いが「銀河鉄道-」につながった。そんな松本さんの訃報が伝えられた

▼2017年には作品展のために来県し、トークショーに出演した。火星を訪れるという夢を語り、宇宙から自分の目で「じかに地球を見てからあの世へ行きたい」とユーモアたっぷりに語っていた。今ごろは火星どころか、はるかかなたの星の上に立っているかもしれない。

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