プライバシー保護の観点から利用する用途は限ってきたはずだ。情報流出の懸念が依然として残るのに、利便性の向上を理由として用途がなし崩し的に拡大されることには不安がある。

 カードを持たないことで、不利益を被る人がいてはならない。国にはデジタル対応が不得手な人たちにも、丁寧に対応していくことが求められる。

 全国民に割り当てた12桁のマイナンバー(個人番号)を明記したマイナンバーカードについて、政府は3月末までに「ほぼ全国民に行き渡らせる」との目標を掲げ、普及を急いでいる。

 マイナンバー制度を支えるマイナカードの申請者は、ようやく全人口の7割に達した。国は最大2万円分のポイント付与を5月末まで延長、取得を後押ししている。

 これとともに政府は、制度を利用する事務の拡大に向けた関連法改正案を今国会に提出する。

 法律で社会保障と税、災害対策の3分野に限っている事務を、政省令の見直しで柔軟に拡大できるようにする。国家資格や自動車登録などの関連業務にも活用する。

 普及を促したい政府の意向が透ける。行政サービスの向上は大切だが、個人情報が流出する恐れはないか確認を徹底し、国民の不安に説明を尽くさねばならない。

 新たな活用策として政府は、行政機関などが把握している金融機関口座とマイナンバーのひも付けを検討している。

 ひも付けする口座を自ら登録する制度はあるが、登録が進んでいないためだ。政府は年金を受け取る口座から始める方針を固めた。

 口座の所有者にひも付けの可否を問う通知をし、期間内に回答がなければ同意したとみなす。

 手続きが乱暴過ぎはしないか。慎重に進めるべきだろう。

 ウイルス禍の際に紙の書類による手続きで給付金事務が手間取った教訓から、今後の迅速な支給に生かす考えだが、口座が本来の目的と違う給付に利用されることへの抵抗感も予想される。

 心配なのは、カード未取得者が不平等な扱いを受けないかだ。

 政府は現行の健康保険証を2024年秋に廃止、マイナカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える。カードの未取得者には「資格確認書」を発行する。

 資格確認書は当初「有料」とされたが、反発を受けて撤回した。懲罰的な扱いは容認できず、当然の判断だろう。

 河野太郎デジタル相は、各自治体に配るデジタル関連の補助金審査で、カードの普及状況を考慮するよう各府省に要請した。

 マイナンバーは国や自治体が持つ住民情報を効率的にやりとりするための制度で、自治体や国民を管理するものではない。用途の拡大で、任意のカード取得を義務化するような流れは認められない。