窓の外は冬空でも、ここだけは春が来たかのように温かい。新潟市中央区のメディアシップ1階や、新潟空港などで、ひな人形とともにつるし雛(びな)の「さげもん」が華やかに飾られている

▼女の子の初節句に無事な成長を願って飾る福岡県柳川市の伝統だ。着物のはぎれでできた鳩やウサギ、桜に宝袋といった縁起物を七つ連ね、それを7連、紅白の輪にぶら下げる。輪の中央にはまりが二つあり、飾りは全部で51個だ。人生が50年だった時代に、一つでも長く生きてほしいと願いを込めた

▼この季節に新潟市内にさげもんが飾られるようになって10年がたった。きっかけは、新潟と福岡を結ぶ空路の利用が低迷していたことだ。空路存続に向けて両地域の関係者が力を合わせ、観光交流を促進する取り組みが始まった

▼街中に堀が巡る水郷の柳川は、かつて堀割があった水都新潟の情景をほうふつとさせる。海は荒海、向こうは佐渡よ…と歌い出す童謡「砂山」を作詞した北原白秋は柳川の出身だ。二つの街には不思議な縁がある

▼白秋で有名なのは「あめふり」だろう。あめあめ、ふれふれ…で始まる名曲を知らない人はいない。この曲の後段を、先月新潟市を訪れた柳川の人たちがこう歌った。「ピンチピンチ、チャンスチャンス、ランランラン♪」

▼さげもんは、10年前の空路存続のピンチを新潟と柳川の友好を深めるチャンスに変えた。育まれた絆が空路の利用を増やした。ランランと行き来する明るい交流は、春の日差しを思わせる。

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