感染拡大を食い止めるための対策で、政府と専門家の方針が食い違っては、国民はどう対応していいか困惑する。両者にはしっかりと意思疎通を図ってもらいたい。
急拡大している新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」を巡り、政府に助言する専門家の有志が公表した提言と、これまでの政府の対策にずれが生じている。
提言は、感染拡大防止は「人流抑制という方法もあるが人数制限が適している」と指摘し、感染が急拡大した場合は、重症化リスクの低い若年層は医療機関を受診せず自宅療養を可能とすることもあり得るとした。
政府はこれまで人流抑制や、症状のある人を検査、診断して治療につなげる医療に重きを置いてきたが、異なる内容だ。
混乱のきっかけになったのは、政府の基本的対処方針分科会の尾身茂会長の発言だ。
尾身氏は提言公表に先立ち、本県などにまん延防止等重点措置の追加適用が決まった19日、有効な対策は「人流抑制ではなく人数制限」と述べ、飲食店休業やステイホームで経済活動を止める必要はないと述べた。
多くの自治体がまん延防止措置に伴う対策を始める矢先に、政府の方針と専門家の発言がずれていては、どちらに基づいて対策を講じたらいいのか、現場は混乱する。
全国知事会の平井伸治会長(鳥取県知事)が外出自粛を呼び掛ける自治体もあるとし、国と自治体の間で「足並みが乱れたような印象を与えないように」と苦言を呈したのは当然だ。
尾身氏は24日の衆院予算委員会でこの問題について問われ、「既に全国知事会とは共通認識に立っている」と釈明した。
一方、答弁では今回の感染急拡大の背景を説明し、「今後状況が悪化すれば、強い対策が必要になる」として、人数制限の重要性を重ねて強調した。
オミクロン株の特徴にふさわしい対策の必要性について、さらに言葉を尽くして説明しようとした印象だ。
それだけに、岸田文雄首相の姿勢が気になる。
まん延防止措置は9日に3県で適用され、21日には計16都県に拡大したが、この間、首相が防止対策を巡り記者会見などで国民に直接協力を求める場は設けられなかった。
安倍、菅政権のように、首相が専門家と共に現状や対策を説明する場面はまだなく、政府と専門家の意思疎通が図れているのか見えにくい。
政府は25日に、さらに18道府県に対するまん延防止措置の適用を決定する方針だ。対象地域は34都道府県となり、ほぼ全国に広がる。
ワクチンは3回目接種が進み、5~11歳への接種も早ければ3月に始まる見通しとなったが副反応や有効性などに疑問を抱いている国民は多いだろう。
未知の部分が多いオミクロン株にどう対応していくのか、首相には不安に寄り添い国民に届く発信を求めたい。
