限界やひずみが目立つ異次元緩和からの出口に向けてどう戦略を立てるか。道筋を丁寧に描いて分かりやすく示すことが、新総裁に課せられた使命だ。

 政府は、4月8日に任期満了となる日銀の黒田東彦総裁の後任に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を候補として国会に提示した。植田氏が24日、衆院議院運営委員会で所信聴取に臨んだ。

 植田氏は金融政策が専門で、日銀審議委員を1998年から7年間務めた。起用は学者としての見識と、市場との対話を担った審議委員の経験が買われたもので、承認されれば、戦後初の経済学者出身の総裁となる。

 所信聴取で注目されたのは、金利を極めて低い水準に抑える大規模金融緩和策への評価だ。

 黒田総裁が始めた金融緩和策は過度な円安と歴史的な物価高の要因となり、金利の決まり方がゆがむなど副作用が深刻だ。

 植田氏は「現在の日銀の金融政策は適切」との認識を示し、「金融緩和を継続し、経済をしっかり支える必要がある」と述べた。

 物価上昇率2%の目標を「早期に実現する」とした政府と日銀の共同声明に対しても、「直ちに見直す必要があるとは今のところ考えていない」と強調した。

 ここで黒田路線から大きく転換すれば、市場の混乱は避けられない。慎重に言葉を選び、安全運転に徹した姿勢は理解できる。

 一方で今後も変化がなければ、市場の閉塞(へいそく)感が増しかねない。新総裁は難しいかじ取りを迫られるといえよう。

 植田氏は、物価目標の実現が見通せるようになれば「金融政策の正常化に踏み出すことができる」とも述べ、将来的に修正する可能性に含みを残した。

 金融緩和策から抜け出すには、賃金が安定的に上昇し、物価が連動して上がる経済の好循環が不可欠だ。タイミングを見極めて、正常化を実現してもらいたい。

 所信聴取では専門用語での質問に対し、用語について説明を加えて答弁するなど、かみ砕いて伝えようとする姿勢がうかがえた。

 後任に選ばれた際の取材には「判断結果を分かりやすく説明することが大事だ」と語っていた。金融政策に国民の理解が深まるような発信にも期待が高まる。

 副総裁候補には、前金融庁長官の氷見野良三氏と、日銀理事の内田真一氏が提示された。学者出身の総裁を、実務に詳しい日銀と財務省出身者で支え、安定感を重視した布陣だろう。

 地方に目を転じれば、ウイルス禍からの回復途上にある地方経済は、物価高の影響も受けて力強さを欠いている。

 日銀新潟支店長などを歴任した内田氏をはじめ、新体制の日銀には、地方の実態も十分把握し、政策に反映させてもらいたい。