個人の名前の読み方には一定のルールが必要だとする判断はやむを得ないが、名前は個人を表現するもので、本来は自由度が高い。

 命名は個人の権利であり、行政の介入は限定的であるべきだ。

 法制審議会は、これまで戸籍に記載されていなかった氏名の「読み仮名」を必須とし、読み方の基準を定める戸籍法改正などの要綱を斎藤健法相に答申した。

 政府は今通常国会に改正案を提出する方針で、2024年度の施行を目指す。

 焦点だったいわゆる「キラキラネーム」など本来と異なる漢字の読み方については、答申は「氏名に用いる文字の読み方として一般に認められているもの」と戸籍法に明記するとした。

 認められない例として、漢字とは意味が反対、読み違いかどうか判然としない、漢字の意味や読み方からはおよそ連想できない、などのケースを示した。

 具体的には「高(ヒクシ)」「太郎(ジロウ、サブロウ、ジョージ、マイケル)」などだ。

 一方で、「海(マリン)」など外来語読みでも一般化していれば認められる方向だという。

 審査する自治体には、「幅広い命名を許容してきた文化」を踏まえ柔軟な運用を求めるとしているが、曖昧さが残る。判断に迷うケースがあるだろう。

 一つの漢字が複数の読みを持ち、源頼朝の朝(トモ)のように、本来の読みではなくても長年の間に定着した「名乗り訓」といった日本語特有の事情があるからだ。

 現在は一般的でなくても芸能人が芸名として使えば、将来は認知される可能性もある。

 肝心なのは、命名する側、審査する行政側の双方とも、子どもの利益を最優先することだ。

 要綱では、施行後に市区町村長は住民基本台帳などの情報を基に読み仮名を通知した上で、1年以内に届けがなければ職権で戸籍に記載することも盛り込んだ。

 届けがない場合、間違った読み仮名が記載される恐れがある。

 間違って記載された場合は、修正が可能かなどについても詳しい説明が必要だろう。

 自治体の作業量は膨大になると想定される。届け出期間が1年で十分かどうか議論してほしい。

 戸籍法改正の背景には、行政のデジタル化が進む中で、個人データを検索しやすくし、効率化させる狙いがある。

 24年には海外居住者がマイナンバーカードを利用できるようになり、国民年金や確定申告のオンライン手続きでの活用が想定される。ローマ字表記する際には戸籍の読み仮名が使われる。

 デジタル化ありきの法改正には疑問も出ている。

 国民や自治体が混乱しないよう政府は丁寧に情報を提供していかねばならない。